「幾何学的な形が持つ理性的な世界に、色彩を通して感性を与えたいと思いました。論理と神秘、そして詩情が、ひとつの作品のなかに共存できるように。」

構造と感性が出会う場所

創作への道は、必ずしもアトリエから始まるとは限りません。デリア・ソラリ(Delia Solari)の歩みもまた、知的な鍛錬と芸術的な感性が、ともに育まれてきた過程を物語っています。23歳で公認会計士資格と経営学の学位を取得し、論理と構造を重んじる分野で学びを深めました。そこで培われた分析的な思考は、物事の成り立ちや均衡、仕組みを捉える視点につながっていきます。やがて生活の変化とともに進む方向も少しずつ変わり、母親になったことを機に、財務や経営の実務から離れるようになりました。それとともに、以前から抱いていた芸術への関心が次第に大きな位置を占めるようになります。若い頃から視覚表現への思いを持ち続けており、それは単なる趣味にとどまらず、やがて彼女にとって中心的な表現となっていきました。

形の美しさへの関心は、早くからソラリを美術やデザインへと向かわせました。ワークショップや専門講座に参加し、さまざまな技法や考え方に触れながら学びを重ねていきます。展覧会や装飾芸術、デザインされたものに見られる整った構造美には、常に強く惹かれていました。なかでも建築への関心は深く、若い頃に別の進路を歩んでいなければ、建築を学んでいたかもしれないと本人も振り返っています。形や構造に対するこうした感覚は、のちに彼女の絵画を特徴づける幾何学的な構成にはっきりと表れるようになります。

音楽もまた、ソラリの感性を育むうえで大きな役割を果たしました。13歳で音楽理論とソルフェージュの指導資格を取得し、その学びを通してリズムや調和、音の関係を捉える感覚を磨きました。こうした音楽的な素養は、のちに絵画の表現にも影響を与えていきます。制作中にはクラシック音楽を流し、その響きが作品の感情やリズムにも作用しています。ピアノ協奏曲やヴァイオリン作品、交響曲に包まれながら筆を進めることで、アトリエの空気が形づくられ、それが制作の気分にも影響を与えます。そこには、ソラリの作品を特徴づける、理性的な秩序と感覚的な表現との対話があります。

デリア・ソラリ:具象表現から「感覚的平面構造主義」へ

ソラリは初期の頃、主に具象作品を制作していました。静物や人物、顔、風景などを描き、目の前の世界を観察しながら、伝統的な絵画の構成を通して表現を探っていきます。しかし次第に、ものの外見をそのまま描くことよりも、その内側にある構造そのものへと関心が移っていきました。形は徐々に簡略化され、見慣れた対象も幾何学的な構成へと変化していきます。そこから生まれたのが、ソラリのいう幾何学的具象です。対象の姿を残しながらも、角度を持つ形や平面によって組み替えていく、具象から抽象へと向かう過渡期の試みでした。

さらに実験を重ねるなかで、ソラリは具象表現そのものから離れていきます。そして最終的にたどり着いたのが、自ら「Sensitive Planimetric Structuralism(感覚的平面構造主義)」と呼ぶ抽象表現です。その根底にあるのは幾何学であり、画面上には、空間の関係や比率の調和を慎重に見極めながら複数の平面が配置されます。まず論理的に構成を考え、全体の均衡を整えるところから作品は始まります。そこには、かつての学問を通して培われた合理的な思考が反映されています。線や角度、交差する面が画面を組み立てていく様子は、建築の骨組みをつくるようでもあります。

構造が定まると、そこに色彩が加わり、画面に感情が宿っていきます。ソラリはこの段階を、幾何学的な形に「感覚を与える」過程として捉えています。色調の変化や明るく響く色が、構造の厳密さをやわらげ、そこに感情や直感が入り込む余地を生み出します。こうして作品には、彼女のなかにある二つの側面が重なります。形の配置を導くのは理性的な秩序であり、そこに感情の響きをもたらすのが色彩です。その両者を結びつけることで、ソラリは思考と神秘、詩情、そして音楽的なリズムがひとつの画面に共存する表現を目指しています。

光、影響、幾何学の詩情

ソラリ独自の表現は、さまざまな芸術家から受けた影響によって形づくられてきました。なかでも深く敬愛しているのが、アルゼンチンの画家エミリオ・ペットルティです。幾何学的な構成とリズム、光をひとつの画面に結びつけたその作品に、ソラリは強く惹かれています。ペットルティが追究した構造と光は、抽象表現であっても生き生きとした力や豊かな表情を失わないことを示すものでした。また、世界のモダニズムも彼女の表現に重要な影響を与えています。パブロ・ピカソが分析的キュビスムから総合的キュビスムへと展開するなかで、形を分解し、組み替え、幾何学的な考え方によって再構成していったことも、ソラリにとって大きな示唆となりました。

マルク・シャガールも、ソラリが共感を寄せる芸術家のひとりです。豊かな想像力に満ちたシャガールの作品は、造形上の厳密な構成を超えて、感情や詩情まで絵画によって表現できることを示しています。ソラリ自身の作風は一貫して抽象表現ですが、シャガールの自由な創造性は、芸術には構造だけでなく感情を伝える力も必要だという彼女の考えを支えています。彼女にとって創作の源となるのは、視覚的な表現方法だけではありません。驚きや記憶、想像力を呼び起こす芸術そのものの力にも、強く惹かれています。

こうしたさまざまな影響は、理性と感情の均衡を求めるソラリの制作へと結びついています。自身の成長について語る際、彼女はしばしば人間の脳を構成する二つの半球になぞらえます。学問によって分析的な思考を磨く一方、芸術活動を通して感性と想像力を育んできたからです。その二つの側面は、作品にもはっきりと表れています。幾何学的な構造が秩序と知的な明晰さをもたらし、そこに光を感じさせる色調の変化が加わることで、温かみや繊細な表情が生まれます。規律と詩情をひとつの画面のなかに結びつけ、視覚的な調和と感情の気配の双方から、見る人を静かな思索へと導くこと。それがソラリの目指す作品です。

デリア・ソラリ:芸術と思索、調和を求めて

2002年、ソラリは《Toward the Light》と題したインスタレーションを制作しました。2001年にニューヨークのツインタワーで起きた同時多発テロが世界に与えた衝撃を受けて生まれた作品です。いつもの絵画とは異なる表現が必要だと感じた彼女は、複数のイメージを順に見せることのできるインスタレーションという形式を選びました。アクリルで描かれた複数のキャンバスには、事件以前のツインタワー、破壊された姿、再建計画、そして最後に、この出来事を振り返るための場面が描かれています。喪失と変化、そして再生の可能性について考える作品として構成されました。

この出来事についての思索は、インスタレーションの完成後も続きました。暴力を防ぎ、より意識的な未来を人類全体で築いていくために、何ができるのか。そうした問いから生まれたのが、《Toward Harmony》と題した彫刻作品です。ステンレス製のモジュールを組み合わせたこの作品では、それぞれの要素に象徴的な意味が与えられています。一つひとつの構成部分が、より高い倫理意識や相互理解へ向かうための段階を表しています。秩序立てて組み上げられたその形を通して、人間と社会が成長し、破壊的な行為を避けるための道筋を示そうとしています。

こうした探究を支えているのが、日々の制作です。ソラリは毎日、内面から浮かび上がるイメージを手がかりに作品と向き合っています。発想は無意識のなかから自然に現れ、少しずつ形を整えながら、キャンバス上の構成へと発展していきます。近年の取り組みのひとつが、《Abstraction of Change and Its Evolution》と題した25点のシリーズです。抽象的な形と色彩を通して、「変化」という概念を探っています。日中は制作に取り組み、夕方になるとオンラインでカードゲームのブリッジを楽しみます。戦略を考えながらプレーすることも、彼女にとって日々の思考を働かせる習慣のひとつです。また、執筆も彼女の活動において重要な位置を占めています。著書《Aesthetic Statements》では、自身の表現を支える考え方を解説し、実際の作品を例に挙げながら分析を行っています。そこから読者は、ソラリの作品がどのような考えに基づいて形づくられているのかを知ることができます。