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「アートは悲しみを美へと変え、忘れられた物語に再び光を当てます。」

感覚と形のあいだで

ジョセフ・ヨス・タニー(Joseph Yos Tany)の制作は、知覚や直感、構成が交わるところにあります。そこから生まれる彼の絵は、風景と抽象のあいだを行き来しながら広がっていきます。ひとつの様式に定まることなく、時間とともに少しずつ姿を変えてきました。彼にとって絵を描くことは、結論にたどり着くためではありません。問いを持ち続けるための行為です。内側にあるものと外の世界とが触れ合う中で、その都度かたちが立ち上がっていきます。作品は完成されたものとして閉じるのではなく、見る者と向き合う場として開かれています。

こうした姿勢の背景には、人や自然、そして目に見えないものへの敬意があります。その中で育まれた、受け継がれていくものへの感覚が、やがて彼の表現の軸になりました。過去の表現に影響を受けながらも、それをそのまま繰り返すものではありません。彼にとって歴史は、すでに終わったものではなく、いまも流れ続けています。だからこそ絵画は、個人的な表現にとどまらず、人と人とをつなぐ行為として立ち上がります。時間や経験、そして内面で起きていることが、ひとつの画面の中で重なっていきます。

彼の活動は、いわゆるアートの枠組みに依存せずに続けられてきました。文化や人道的な関心から各地を巡りながら、保存や再生、そして創造がどのように受け継がれていくのかを考え続けてきました。長い時間をかけて取り組んできた絵画のシリーズの多くは、展覧会の都合に左右されることなく、静かな環境の中で完成しています。1990年代後半には、手作業で構築したウェブサイトを含むデジタルの場にいち早く取り組み、従来の展示では難しかったスピードと広がりで作品を発信しました。こうした積み重ねは、外の動きに左右されることなく、内側からの動機に支えられてきました。

タニーは映像による表現にも取り組んでいます。思い立ったその場でカメラを回し、屋外で撮影することも多く、自然そのものが舞台となります。そうした即興的な制作の時間は、彼にとって大きな喜びでもあります。視覚表現は、そのまま生きている世界と結びついています。現在は、バルセロナを拠点とする長年の協働者とともに、新たな映像シリーズの制作が進められており、この特集を通して得られた着想も、そのシリーズの中に取り込まれています。

アルジュナ・アーダーの導きによって得た全体性の感覚は、いまでは他者の癒しを支えるものとして表れており、その感覚は制作の中にも繰り返し現れながら、同じ方向を向く人たちを引き寄せ、長く離れていたものを再び結びつけようとしています。

変容を軸にした表現

タニーの制作は当初から、人が共有する感情をどうにかして伝えたいという思いから始まりました。理論ではなく直感に導かれながら、内面で起きていることをそのまま画面に立ち上げていきます。やがて、制作を続ける中で繰り返し立ち現れる感覚や気づきが、作品の中にひとつの流れをつくっていきました。イメージと思考が重なり合いながら、彼の絵は感情や記憶、そして過去から受け継がれてきたものが交差する場になっていきます。作品ごとに見え方は大きく異なりますが、その根底には、ひとつの探求が通っています。

現在の作風は、強い色彩と重なり合うイメージ、そしてどこか現実から少し離れたような空気を帯びています。画面の中では、動きと静けさが同時に存在しています。そのため、見る者は変化の気配を感じながらも、同時に落ち着いた感覚へと引き込まれていきます。彼が描くのは、何かが移り変わる瞬間です。それは個人的な変化であり、心の動きであり、あるいは内面的な転換でもあります。とくに、回復や立ち直りへ向かう過程に強い関心が向けられています。目に見えるものは、その背後にある見えないものに触れるように描かれ、そこから先へと広がる余白を残しています。

それぞれの作品の軸にあるのは、変化していく力です。感情や記憶、経験の断片は、そのまま描かれるのではなく、画面の中で組み替えられ、新しいかたちへと置き直されます。具体的な像が薄れ、抽象に近づく場面でも、画面には内側から続くリズムがあり、ひとつの流れが通っています。ただし、それがはっきりと説明されることはありません。静かに立ち上がり、見る者の側に解釈を委ねます。こうして絵は、作家から一方的に示されるものではなく、見る者とのあいだで成り立つものへと変わっていきます。その中で、小さな気づきや変化が自然に生まれていきます。

彼にとって絵を描くことは、切り離すことのできない営みです。制作は愛に根ざした行為であり、作品が世界の中に置かれることで、他者との対話が続いていきます。

視覚と思考を形づくる背景

タニーの表現は、これまでに触れてきたさまざまな影響の中で育ってきました。自然と関わる実践や抽象表現、感情を前面に出した具象表現など、多様な領域に触れながら、自身の視覚と言葉を築いてきました。アンディ・ゴールズワージーやワシリー・カンディンスキーからは、形や動き、そして目に見えないものの捉え方に示唆を得ています。マックス・エルンストの想像力、クレス・オルデンバーグのスケール感とユーモア、アンリ・マティスの色彩感覚もまた、彼の表現の幅を広げてきました。さらに、ポール・ブラック、ポール・ゴーギャン、ギュスターヴ・クールベ、エル・グレコ、フランシスコ・ゴヤといった画家たちからは、構成の強さや表現の密度、そして絵が持つ感情の重みを学んでいます。

文学や思想もまた、彼の制作に深く関わっています。『トマスによる福音書』は、内面の理解や精神的な感覚を捉えるうえで重要な存在です。ダンテ・アリギエーリの描いた世界観は、人の内面がどのように移り変わっていくのかを考える視点につながっています。ジッドゥ・クリシュナムルティやケン・ウィルバーの思想は、意識や知性、人の成長についての理解を深める手がかりとなっています。

さらに、ミシェル・フーコーの権力や断絶に関する考察は構造を見る視点を鋭くし、カート・ヴォネガットの視点や反戦の姿勢は、創作における倫理の感覚に影響を与えています。こうした影響は作品に直接現れるものではありませんが、ものの見方や考え方の土台として、制作の随所に表れています。

アレグレ・ピラミッドという構想

絵画にとどまらず、タニーは「アレグレ・ピラミッド 」というプロジェクトを構想しています。建築家ハイネ・クロニエとの協働によって進められているもので、ポルトガルに建設が予定されている七層構造のピラミッドです。音楽や芸術、学び、再生の場として機能することが想定されており、神聖幾何学や音響設計、再生可能エネルギーの仕組みが組み込まれています。さらに、ノア・レヴィンとともに設計された螺旋状の庭園や食用林も周囲に広がる計画となっています。

この構想は単なる建築ではありません。少人数での滞在を前提とした環境の中で、音楽家やアーティスト、思想家、探求者が集い、創造と環境への配慮、内面的な調和が自然に重なり合う場として考えられています。長期的な居住と土地との関係を大切にしながら、時間をかけて外へと開かれていくことも視野に入れられています。人と自然が無理なく共に在るための、新しいあり方を示す試みです。

パウルス:文化をつなぐ使徒

タニーの活動は、視覚表現の枠を越えて広がり続けています。歴史学者シャローム・ラツァビ教授による書籍『パウルス』のカバーイメージを手がけており、2026年初頭の刊行が予定されています。この書籍では、使徒パウロの生涯と、その思想が文化や時代を越えてどのように広がっていったのかが探られています。この仕事からは、受け継がれていくものや信念、そして変化という主題が、彼の制作の中で途切れることなく続いていることがうかがえます。

癒しのイメージとこれから

彼の制作を象徴する作品のひとつに、《ザ・ロスト・ハートブレイク》があります。この作品は、路上に捨てられていた一枚の絵から始まりました。そこに残されていたのは、別の作家による感情の痕跡でした。タニーはそれを消すのではなく、そのまま受け止め、画面に向き合いながら描き直していきます。すでに描かれていた線やかたちに導かれるように筆を重ねることで、時間や経験を越えたやり取りのような制作が進んでいきました。

油彩によって、風の動きを思わせる流れや大きく開いた花、再び息を取り戻したような風景が加えられ、もともと空白を感じさせていた画面は、回復と強さを感じさせるものへと変わっていきました。この制作は、見知らぬ作家に対する応答であると同時に、タニー自身にとっての再生の過程でもありました。《ザ・ロスト・ハートブレイク》は、悲しみを美へと変え、見過ごされてきたものを再び浮かび上がらせるという彼の考えを、はっきりと示しています。

彼の活動には、もうひとつの軸があります。12年以上にわたって続けてきたプラズマを扱ったエネルギー研究です。2013年以降、KFスペースシップの研究に触発されながら、MAGRAV装置の設計や制作に取り組んできました。アトリエは制作の場であると同時に実験の場でもあり、銅を用いた構造物や装置が置かれています。

こうした取り組みを通して、構造や循環、物質に対する見方も大きく変わっていきました。銅という素材に向き合う中で、現実の中にある流れをより具体的に捉える感覚が育まれ、エネルギーの構造と絵画の構成が重なり合うようになっています。この関係は、彼の表現そのものを広げています。

また、自身の体験を記録することも続けています。それらは単なる出来事の記録ではなく、積み重ねられた経験として残され、次へ進むための手がかりとなっています。その中には、未知の存在との接触や、その先にあるつながりへの意識も含まれています。

制作は止まることなく続いています。作品は一つとして同じ場所にとどまらず、次へと連なりながら流れを形づくっています。今後は、長年活動を共にしてきた作家たちとの協働プロジェクトも予定されています。アートを通じて、新たな関係やつながりが生まれていくことでしょう。

オンラインギャラリー:https://fineartamerica.com/profiles/joseph-tany