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「私の作品、そしてこれまでのキャリア全体において、一貫して大切にしてきたテーマは『癒し』です。」

多様なキャリアを経て見つけた癒しの道

ラジュル・シャー(Rajul Shah)の芸術の旅は、彼女の幅広いキャリア経験から生まれました。20年以上にわたり、彼女は製薬業界や医療マーケティングの分野で活躍し、乳がん、肺がん、前立腺がん、大腸がん、血液がん、てんかん、慢性および急性の痛み、失禁、性的機能障害など、多岐にわたる治療領域に携わりました。この経験を通じて、医師や患者、介護者の声を聞き、それを基にした戦略を生み出すことで、多くの命に関わる病気への理解を深めました。

一方で、幼い頃から抱いていた絵画への情熱は途絶えることなく、成長とともに写真への関心も深まりました。第一線を退いた後、2012年に訪れた日本で、アートへの思いをさらに追求することを決意します。クラスやワークショップに参加し、さまざまな二次元メディアや写真に関する知識を書籍や映像を通じて学びました。そしてついに、絵画が自分の心を最も表現できる手段であると確信するに至りました。

2016年、初めての展覧会を開催。その後、2018年には東京・六本木の国立新美術館で開催された新制作展で全国公募展に初入選を果たします。その後も、東京都美術館や上野の森美術館での全国公募展での入選を重ね、趣味の域を超えた本格的なアーティストとしての道を確立しました。

ラジュル・シャー:「失われたもの」を再生するアート

シャーの作品は一貫して「癒し」をテーマとしています。その根底にあるのが、日本の伝統技法である金継ぎの哲学です。金継ぎは、壊れた陶器を金や樹脂で修復し、欠けた部分を補強して新たな美を創り出す技術であり、逆境を乗り越えてより強く、より美しくなることを象徴しています。この哲学を軸に、シャーは抽象的な形や風景、色彩を用いた作品を制作しており、その成果は「金継ぎの身体」「金継ぎの地球」「金継ぎのチャクラ」の3つのコレクションに集約されています。

「金継ぎの身体」では女性の形を中心に、人間のチャクラシステムを取り入れています。このコレクションは、傷を癒し、欠点を受け入れることで新たな美を見いだす人間の力強さを表現しています。これは希望を持ち続け、自己を再構築する力を私たちに呼びかけています。

「金継ぎの地球」は、地球温暖化や気候変動といった差し迫った問題に取り組み、傷ついた地球を修復する希望を描きます。このコレクションは、環境への配慮と癒しの可能性を視覚化し、未来の世代により良い地球を残す重要性を強調しています。

また、「金継ぎのチャクラ」では、人間の感情的な健康を司る7つのエネルギーセンターに焦点を当てています。それぞれのチャクラがアンバランスになると身体的な不調を招くとされますが、シャーは「The Anatomy of the Spirit(魂の解剖学)」という書籍に着想を得て、この概念を金継ぎの哲学に反映させ、バランスを取り戻すことや精神の健康を促進することを目指しています。

「Purple Octopus Art」の使命:癒しのプラットフォームの創造

2021年、フィレンツェビエンナーレ出展の準備をしていたシャーは、自身が過去に経験した流産の退院書類を見つけました。この書類は、彼女が決して出会うことのなかった子どもの存在を証明する唯一の証拠でした。この経験から、彼女は「Reconstruction」という作品を制作しました。この作品では、金継ぎの技法に触発され、修復された子宮を抱く母親が描かれています。この作品は、シャー自身の癒しとなると同時に、失った命への愛情を込めた記憶となり、後に生まれた子どもとの癒しをも象徴しています。

シャーの創作のプロセスには、決まった方法はありません。スタジオに入ると、まずはリネンキャンバスや和紙、木のパネル、パピルス、樹皮の紙など、さまざまな素材に手を触れてみて、その時々で最も納得のいくものを選ぶことが多いそうです。彼女は非常に感覚的で、絵の具を手で塗りはじめることもしばしばあります。

シャーの作業場は、住居の3階にある、自然光がたっぷりと入る静かな空間です。そこには周囲の自然とつながる穏やかな屋外スペースもあり、朝は鳥のさえずりが聞こえてきます。シャーはこの静かな環境を大切にしており、屋内外問わず、落ち着いた場所での作業を好みます。

現在、シャーは夢のプロジェクトに取り組んでいます。Purple Octopus Art LLC(www.purpleoctopusart.com)の共同設立者として、アートや執筆といった創作活動を通じて、人間の病気や環境問題に焦点を当てたプラットフォームを立ち上げました。現在、この団体では女性のがんに関するアートや執筆に注力しており、今後はメンタルヘルスや神経変性疾患をテーマにした作品にも取り組む予定です。

ラジュル・シャー:創造への第一歩を踏み出すために

ラジュル・シャーと共に活動するパートナーは、芸術や執筆を治療の一環として取り入れることに強い思いを抱いています。彼らは、創造性が癒しを促し、多様なインスピレーションや新しい視点をもたらす力があると確信しています。これらの視点を持つことで、患者やその家族は専門用語に縛られることなく必要な情報を得ることができ、病気を乗り越えた後も充実した人生を築くきっかけを見出せるからです。

シャーは、彼女の作品やプラットフォームを通じて紹介されるアートや執筆が、世界中の医療機関や患者支援クリニック、診療所に展示される未来を描いています。音楽やダンスのように、芸術や文学もまた、独自の視点を通じて人々を癒し、世界に貢献できる普遍的な言語だと彼女は考えています。

アーティストを志す人々に向けて、シャーはまず「創造を始めること」の大切さを説きます。絵を描いたり、スケッチしたり、その他の表現方法に挑戦しながら、他人の評価を気にせずに自分の感情と向き合うことが重要です。創造の道は、個人的な感情を伴い、自分自身と向き合う深い旅であり、自分のペースで進むことが求められます。最初は、モネやゴッホといった著名な画家、あるいは地元のアーティストの作品を模倣することで技術を磨くのが自然なステップでしょう。これは、さまざまな技法の難しさや色彩の組み合わせを理解するための貴重なプロセスです。

基礎的なスキルが身についた段階で、アーティストは自己発見の旅に出ることができます。自分がどのようなアーティストになりたいのか、どのようなメッセージを作品に込めたいのかを探求するのです。シャーは、アーティストが自分の作品に魂を込めることの重要性を強調し、作品を世界に公開するか否かは完全に自分の意思に委ねられていることを忘れないよう助言します。作品はあくまでその創作者自身のものであり、その最終的な目的を決めるのもまた創作者自身です。