「写真を撮るたびに感じる不確実性。それはいつも私に新しい発見や学びを与えてくれます。そしてその瞬間こそ、私が心から求めているものなのです。」
アーティストの原点:喧騒の街から静寂のレンズへ
1975年、グアテマラシティで生まれた
イサベル・エレーラ(Isabel Herrera)。活気に満ちたこの街で育ち、現在も家族や5匹の愛犬とともに暮らしています。アメリカ・バージニア州の名門ウィリアム・アンド・メアリー大学で心理学の学士号を取得した後、教育分野でキャリアをスタートさせました。特に自閉症児への早期介入療法に携わる一方、家族経営の事業にも積極的に関わってきました。母となったことは、エレーラの創作活動に大きな影響を与えました。自身の子どもたちは、彼女にとってインスピレーションの源であると同時に、撮影の際には頼れるパートナーとしても活躍しています。
また、ランニングやハイキング、水泳などのアウトドア活動やヨガを日課にすることで心身の調和を保ち、その中で生まれる集中力が創造力を支える重要な原動力となっています。自然の中で過ごす時間は、彼女にとって欠かせないものです。こうしてエレーラは、日々の生活の中で生まれるひらめきや気づきを大切にしながら、身近な環境や経験の中にある儚くも永続的な本質を写真に捉えています。その作品には、静けさや美しさが見事に表現されており、観る者に深い印象を与えます。
イサベル・エレーラ:家族から受け継いだ芸術の感性
イサベル・エレーラが芸術と深く結びついた人生を歩むようになった背景には、家族の影響があります。母親は、絵画やバティック染め、紙を使ったコラージュなど多彩な表現を手がけるアーティストでした。また、エレーラのドレスをデザインし、手作りすることもありました。こうした母親の創作活動の中で育ったエレーラは、自然と芸術への興味を育み、色彩や構図の感覚を磨いていきました。
また、父親は家族の写真をよく撮っており、その姿を通して幼いエレーラに写真の魅力を教えてくれた存在でした。しかし、彼女が写真の世界に本格的に足を踏み入れるようになったのは2013年のことです。グアテマラを代表する写真家ルイス・ゴンサレス・パルマ(Luis González Palma)との共同制作をきっかけに、写真が持つ新たな可能性に気づき、表現の幅を広げていきました。
エレーラにとって大きな転機となったのは2016年に起きた出来事でした。車の事故に巻き込まれた彼女は、その経験をきっかけにインスタント写真の世界に引き込まれます。もともとはデジタル写真に親しんでいましたが、ポラロイド写真の持つ予測できない味わいに惹かれ、SX70カメラとの出会いを通じてその魅力に没頭するようになりました。ポラロイドで撮る写真は、一瞬の出来事を鮮やかに切り取り、その中に人生の儚さや美しさを映し出しています。エレーラにとって写真は、単なる記録ではなく、瞬間の中に隠された豊かさを形にする手段です。彼女は、ポラロイドを通じて日々の出来事を鮮明に捉え、その物語を静かに紡ぎ続けています。
ポラロイドの幻想世界:エレーラが紡ぐ物語
イサベル・エレーラは、ポラロイド写真を愛する人々との国際的な交流を通じて、新たな刺激を受けながら自身の作品を広めてきました。グアテマラではカメラやフィルムを手に入れるのが難しく、制作に困難が伴うこともありますが、それもまた彼女にとって挑戦の楽しみのひとつとなっています。
彼女の作品は、夢や空想が織り交ざった幻想的な世界を映し出し、そこには彼女自身の内なる思いが反映されています。特に「エマルジョンリフト」と呼ばれる技法は、偶然性や不確実性を受け入れながら進めるプロセスそのものが、彼女にとって心を整え癒しをもたらす時間となっています。また、アルミニウムやシフォン、アクリルといった素材を使う際は、作品のテーマや伝えたい感情に合わせて慎重に選び抜かれます。こうした細部へのこだわりによって、エレーラは自身の幻想的なイメージを形にし、観る人をその独特の世界へと引き込んでいます。
イサベル・エレーラ:作品を彩るツールとインスピレーション
イサベル・エレーラの創作活動を支えるのは、愛用するSLRS670-SやSX70のカメラと、それに欠かせないポラロイドのカラー600フィルムや白黒フィルムです。また、彼女にとって自然の中で過ごす時間は、創作に欠かせない大切なひとときです。日常の忙しさにその時間が奪われることもありますが、自然との触れ合いは常に彼女の創造性を育む原動力となっています。
エレーラのインスピレーションは多岐にわたり、それぞれが深い意味を持っています。自閉症と向き合う娘のたくましさは、彼女の物の見方を大きく変えるきっかけとなりました。また、ルイス・ゴンサレス・パルマとの出会いは、彼女を新たな表現の世界へと導き、挑戦する楽しさを教えてくれました。さらに、母親の尽きない創造力や、友人や家族の支え、サリー・マン、レンブラント、エミリー・ディキンソンといった芸術家たちの作品が、彼女の創作に新たな刺激を与え続けています。
その中でも特に印象的な「Matilisguateシリーズ」は、グアテマラシティに咲く桜の儚い美しさを描いた作品です。このシリーズは、文化や伝統に対する郷愁を織り交ぜ、家族や時間の儚さをテーマにしています。過ぎ去った瞬間の愛おしさと、今も続く家族の絆を表現した作品は、多くの人々の心を静かに揺さぶります。