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「アートには、人と人をつなぎ、文化の垣根を越え、心を通わせる力があります。それは、希望を育み、絆を深める手段でもあるのです。」

自然が育む創造の芽

岐阜と愛知の豊かな自然のなかで育った久徳裕子(Yuko Kyutoku)は、幼い頃から風景や生命の営みに心を惹かれていました。山や川のそばで過ごすうちに、感受性が磨かれ、やがてそれが創作の根幹となっていきます。久徳の家庭は医師の家系でありながら、芸術にも深い関心を持ち、創作を自然に受け入れる環境がありました。なかでも父の勧めで陶芸や油絵、紙のコラージュなどに触れた経験は、彼女の表現の幅を広げるきっかけとなりました。作品を学校や地域の展示会に出品するたびに、人に伝わる喜びを実感し、自信を深めていきます。

思春期には、オペラや料理などさまざまな芸術分野に関心を持つようになりましたが、最も自分らしくいられるのは、やはりアートの世界でした。学生時代には数々の賞を受賞し、そのたびに創作への思いが強まっていきます。そして、ニューヨーク州立大学パーチェス校に進学し、絵画やドローイング、版画を学びながら、自らの体験を作品に昇華させる手法を模索しました。その過程でアートセラピーという分野に出会い、やがてニューヨーク大学で修士号を取得するに至ります。

久徳裕子:響き合うアートの言葉

久徳裕子の作品は、個人的な体験を映しながらも、誰もが共感できる普遍的な魅力を持っています。鮮やかな色彩と平面的な構成が特徴的な作風は、日本の浮世絵を思わせるグラフィカルな趣があり、独自の視覚表現を生み出しています。久徳はガッシュやジェルペン、シルクスクリーンなど、多彩な素材を組み合わせながら、ミクストメディアの表現を探求してきました。デジタル技術に頼らず、手作業にこだわることで、直感的で温もりのある表現を追求しています。

彼女の創作の根底にあるのは、「何気ない日常の中に、特別な輝きを見出す」という思いです。何気ない出来事や個人的な記憶を作品に織り込みながら、観る者と対話を重ね、心を通わせる瞬間を大切にしています。アートは単なる自己表現ではなく、異なる価値観をつなぎ、人と人との間に共鳴を生み出すもの。彼女は作品を通じて、希望や喜びを届けたいと考えています。

その思いが形となった代表作のひとつが、『ザ・ブルー・ニューヨーク・ボタニカル・ガーデン(The Blue New York Botanical Garden)』です。大学時代、自らの芸術的な立ち位置を模索するなかで生まれたこの作品は、周囲の評価や指導者の意見に左右されることなく、自分の感覚を信じて制作されたものです。青を基調とした色彩とミクストメディアの手法を用い、植物園の静けさと美しさを描き出しました。この作品の成功は、大きな転機となり、「自分らしさ」を貫くことの大切さを確信するきっかけとなりました。

創造のリズム:空間、音楽、制作プロセス

久徳裕子にとって、アトリエは創作に没頭するための静かな聖域です。特に深夜の静けさのなかで作業することが多く、雑音のない環境が創造力を研ぎ澄ませてくれます。制作には音楽が欠かせず、作品ごとに最適なプレイリストを選び、音と色彩のリズムを調和させていきます。オペラやジャズ、クラシック、アフリカの伝統音楽など、多彩なジャンルを聴きながら、作品の雰囲気を形作っていくのが彼女のスタイルです。時には、楽曲のタイトルや歌詞のテーマが、構図やコンセプトに影響を与えることもあります。

また、素材の手触りや質感を大切にしており、なかでもガッシュの持つ透明感と不透明さのコントラストを自在に操る技法を磨いてきました。学生時代にはさまざまなメディアを試しましたが、最終的に絵画、ドローイング、版画を組み合わせる表現にたどり着きます。この手法によって、作品に奥行きが生まれ、観る者の想像力を引き出す多層的な世界が広がります。

創作において彼女が何より大切にしているのは、「楽しむこと」です。制作の喜びがそのまま作品に宿り、そのエネルギーが観る者にも伝わると考えています。そのため、直感に従いながら、ひと筆ひと筆を大切に重ねていくのです。

久徳裕子:癒しとつながりを生むアート

久徳裕子の創作は、単なる自己表現にとどまらず、人々に癒しと希望を届けることを大きな目的としています。現在、小児病院でアートセラピストとして活動しながら、個人セッションを通じて心のケアを必要とする人々を支えています。アーティストでありセラピストでもある彼女は、アートが生み出す癒しとつながりの力を多くの人に伝えるため、作品制作や展覧会を通じて、その可能性を探求し続けています。

また、アートとメンタルヘルスを結びつけた書籍の出版も計画しており、塗り絵や視覚的な瞑想ガイドなど、心を整えるためのツールを制作しています。さらに、子ども向けの絵本を手がけ、幼い頃からアートセラピーに親しめる環境をつくることを目指しています。同じ志を持つアーティストやセラピストとともにグループ展を開催し、アートがもたらす癒しの力を広く伝える活動にも力を注いでいます。

彼女にとって、アートは「希望とつながりを生み出すもの」です。作品を通じて、人々が自らと向き合い、新たな気づきを得る瞬間を大切にしながら、これからも歩みを続けていくことでしょう。その創作は、多くの心に寄り添い、癒しとつながりをもたらしていくはずです。