Skip to main content

「私にとって最も重要な作品は、ルフトハンザのために制作した『Sonnenkugel』です。ドイツウィングス4U9525便で亡くなった150人の犠牲者を追悼する記念碑です。」

受け継がれるもの:芸術とともに歩んだ軌跡

ユルゲン・バッチャイダー(Jürgen Batscheider)が芸術に出会ったのは、祖父のアトリエでした。地元で長く制作を続けてきた画家の祖父は、周囲から一目置かれる存在でもありました。そのもとで過ごす時間のなかで、制作は彼にとって次第に身近なものになっていきます。幼い頃から絵画や素材に囲まれて育った経験は、創作を特別な行為ではなく日常の延長として受け止める感覚を自然に育てました。22歳で最初の展覧会を開催したことを機に、彫刻と絵画の両分野に本格的に取り組むようになります。

20代半ばにはドイツ・ベルヒテスガーデンの彫刻学校に進み、三年間にわたって造形や素材への理解を深めました。この時期の学びは、その後の制作の基盤となっていきます。やがて彼の活動は自身の作品制作にとどまらず、作家同士の交流の場を生み出す方向へも広がっていきました。メリナ・メルクーリの後援のもとミロス島の古代劇場で行われたシンポジウムをはじめ、ティノス島でのヨーロッパ芸術シンポジウム「アイオロス」、さらに2015年から2019年にかけてドイツ各地で企画された複数の催しなど、バッチャイダーは七つの大規模なシンポジウムを主導しています。そこでは異なる文化背景をもつ作家たちが集い、互いの表現に刺激を与え合いました。

また、国際的な彫刻シンポジウムへの参加も彼の制作観に影響を与えています。スイスのダヴォスやビューレン、ズール・エン、ラークスのほか、オーストリアやドイツ各地での経験を通じて、他の彫刻家たちと技法や考え方を共有してきました。こうした積み重ねは技術面だけでなく、彫刻が社会や文化のなかで果たしうる意味を見つめる視点へとつながっていきます。彼の歩みは流行を追いかけた結果ではありません。祖父から受け取ったものを出発点に、素材や土地との関わりのなかで、自身の表現を静かに形づくってきたのです。

ユルゲン・バッチャイダー:森と海辺のあいだで

現在のバッチャイダーは都市の喧騒から離れ、南ドイツの田園地帯に拠点を置いて制作を続けています。町外れに構えたアトリエでは、主に木や石を用いた彫刻に取り組んでいます。この場所は制作の場であると同時に、彫刻公園やランドアートのプロジェクトが広がる空間でもあります。訪れる人の多くが、ここで過ごす時間の感覚が変わると語ります。土地のあり方そのものもまた、彼の制作と深く結びついています。

一方、冬の時期は絵画に向き合う時間となります。寒い季節になると南フランスや地中海沿岸の静かな土地へ滞在先を移し、制作の重心は立体から色彩や抽象表現へと移っていきます。描かれるのは目の前の風景を写し取ったものではなく、記憶やそのときの感覚をもとにした心象的な風景です。こうした季節ごとの制作のリズムは20代前半から続いています。若い頃は拠点となるアトリエを持たず、場所を移しながら制作を続けていました。その経験が、彫刻と絵画を行き来する現在の制作のリズムにつながっています。2025年の新作シリーズでは、ひとつの風景のモチーフを繰り返し取り上げ、それぞれ異なる感情の響きを抽象的な表現によって示しています。

これに対して彫刻は、より直接的にかたちと向き合う制作です。木からは動物や人物の像が現れますが、それらは写実と抽象のあいだに位置づけられるものです。鮮やかな彩色が施されることもあれば、近年は炭化によって表面を黒く仕上げる手法も用いられています。木を焼いて黒く仕上げる方法は、造形上の効果にとどまらない意味を持っています。木を炭化させることで現れる黒は、人間を含む生命の基盤となる炭素を想起させます。そこに金箔を組み合わせることで、もうひとつの意味が加わります。星の生成過程に由来するとされる金は、地上の生命とは異なる時間の広がりを示す素材として扱われています。こうした対比は、現在制作が進められている彫刻『Angel』にも引き継がれています。等身大の炭化した人物像に金色の翼が取り付けられ、ドイツのマリア・シュタインバッハの聖域と向き合う位置に設置される予定です。

素材の記憶と感情の精度

バッチャイダーは、時代や地域を越えて多くの表現に目を向けてきました。かつてはパブロ・ピカソの表現に強く惹かれていましたが、現在はクロード・モネやJ・M・W・ターナーの作品に見られる光や空気の移ろいに関心を寄せています。彫刻においては古代ギリシャの造形やアルベルト・ジャコメッティの細長い人体表現、さらに先史時代の造形にまで視線を遡らせています。ウルム近郊のローン渓谷で発見された洞窟彫刻は、人類が生み出した最古級の造形のひとつとされるものであり、素材に意味を与えようとする人の営みがいまも続いていることを実感させます。

インスタレーション『boatpeople』は、個人的な体験から生まれた作品です。構想の背景には、20代の頃に出会ったベトナム難民の同僚の存在がありました。中国の侵攻から逃れ、人道支援船カップ・アナムール号で脱出したという話は、その後も彼のなかに残り続けます。やがてこの記憶は、回収されたワイン樽を素材にした数百の小さな舟によるインスタレーションへと展開していきました。同じ形を持ちながら一つひとつ異なる舟は、移動を余儀なくされた人々の物語と希望を重ね合わせるものです。作品は各地で展示されてきましたが、とりわけ2014年に地中海沿岸の北アフリカを望む場所に設置された際には、作品の背景と重なる状況のなかで提示されました。

『Sonnenkugel』は、バッチャイダーの制作を語るうえで欠かせない公共彫刻です。ドイツウィングス4U9525便で亡くなった150人の犠牲者を追悼するため、ルフトハンザの依頼と国際公募を経て実現しました。作品は墜落現場に設置され、犠牲者一人ひとりを象徴する149枚の金色のアルミニウムパネルによって構成されています。その内部には木製の追悼球を収めた結晶状の構造体が据えられています。金色の表面は太陽や生命を想起させる要素として扱われています。さらに谷を挟んだ対岸には『Solar Portal』が配置され、訪れる人の視線を事故現場へと導く構成がとられています。この作品は、訪れる人が立ち止まり、出来事を思い返す場として設けられています。

ユルゲン・バッチャイダー:ガラスと石が示すこれからの象徴

2025年から2026年にかけて制作が予定されている『Papillon』は、色ガラス、アルミニウム、大理石を組み合わせた新作です。着想の背景には、魂と蝶の両方を意味する古代ギリシャ語「プシュケー」の概念があります。この二重の意味は、交通事故で亡くなった人物との精神的なつながりを主題とする構想へとつながっています。従来の記念碑が喪失の記憶を示すことに重きを置くのに対し、『Papillon』では生者と死者のあいだにある見えない関係を、素材とかたちを通して提示しようとしています。

作品では素材の性質そのものが重要な役割を担います。透明で壊れやすいガラスは、記憶や生のはかなさを思わせます。時間の重みを感じさせる大理石は、地上にとどまる存在の感覚を支えます。そこに現代的な軽さをもつアルミニウムが加わることで、異なる時間感覚や存在のあり方を行き来する構成が生まれます。これらの素材は対比的に用いられながら、変化と持続という主題を具体的な造形として示しています。

バッチャイダーは制作において、技術と思想を切り離して考えることはありません。炭化した木材や金色の表面、再利用された素材といった選択も、いずれも制作の背景にある問いと結びついています。彼にとって彫刻は単なる表現ではなく、存在や記憶について考えるための方法でもあります。制作が進められている『Papillon』も、そうした考えの延長にある作品です。芸術が異なる領域のあいだに新たな関係を生み出しうること、そして記憶がかたちとして共有されていく可能性を探る試みとして構想されています。