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「私のアートは、“見える世界”と“見えない世界”をつなぐ架け橋です。」

ソーホーの鼓動に育てられて

創作は、ミーシャエル(Mieshiel)にとって単なる才能ではなく、人生そのものを形づくる力でした。1964年、アートが日常として息づくニューヨークに生まれた彼は、幼い頃から“表現と共に生きる”環境に身を置いていました。グラフィックデザインを仕事としつつ、同時にファインアートを追求していた両親のもとで育った彼は、緻密な制作の姿勢と自由な創造の喜びを自然に身につけていったのです。1970~80年代、アートシーンが大きく姿を変えていくソーホーで過ごした日々は、彼の感性を深く育みました。現代美術の現場で次々に生まれる新しい表現を目の当たりにし、それらは彼自身の創作意識を鮮やかに刺激していったのです。

アーティストとしての道を選ぶことは、彼にとって必然でした。家族の支えを受けながら、幼い頃から他のどんな仕事よりもアートだけが心を動かすと確信していたのです。両親が常にさまざまな表現方法を探り続ける姿は、彼に多面的なアプローチを教え、技術への理解と同時に、限りない想像力への信頼を育んでいきました。こうした体験が、後の彼の作品世界を形づくる土台となったのです。

さらなる探究を求めて、ミーシャエルはカリフォルニア芸術大学(CalArts)に進学します。専攻はグラフィックデザインでしたが、在学中に絵画やドローイング、版画へと関心を広げていきました。構造を重んじる思考と、直感に導かれる自由な表現。その両方を行き来する学びの中で、彼は“デザインとアートのあいだ”に自らの居場所を見出していったのです。東海岸の洗練された感覚と、西海岸ならではの大胆な創造性。その融合こそが、今もなお彼の作品の核となっています。

Circus Circus
キャンバスに油彩
72”x108”

ミーシャエル:アートが導く内なる探求

ミーシャエルが目指すのは、ただ目に映る美しさを描くことではありません。彼の作品は、私たちの感覚を研ぎ澄ませ、心の奥にある静かな領域へと意識を向けさせるものです。印象派やシュルレアリスム、そして彼自身が「シャーマニック・ヴィジョン」と呼ぶ直観的な視点を融合させたその表現は、象徴に満ちたイメージが幾重にも重なり、どこか現実離れした空気をまとっています。夢や幻視、精神的な体験に基づくその作品は、現実と非現実の境界が曖昧になるあわいの感覚を描き出しています。彼が描こうとしているのは、ただの風景ではありません。見る人の想像力と感性を呼び覚まし、日常では意識しにくい内なる世界と向き合うきっかけをつくることなのです。

なかでも代表作とされるのが、2003年から2006年にかけて制作された『ヘヴンズ・ゲート』。縦約3メートル、横4.5メートルの9枚からなるこの大作は、色鉛筆で描かれたとは思えないほど豊かな奥行きをたたえています。地上と天上のつながりを主題とし、彼の関心である神聖な象徴や物語性が、細部に至るまで精密に描き込まれています。まるで画面全体が、精神世界とこの現実を結ぶひとつの地図のように構成されているのです。ミーシャエル自身、「生涯で最も重要な作品」と語るこの一点には、彼の制作に対する覚悟と信念が凝縮されています。

現在は大判の油彩を中心に制作を続けていますが、初期の色鉛筆作品もなお彼の表現の核をなしています。「印象派的シュルレアリスム」と称されるこれらの作品は、精密な描写と豊かな象徴性で知られ、多くの人々の心をとらえてきました。やがて、そこからより広がりのあるダイナミックな絵画へと移行していく中でも、ミーシャエルの中に流れている表現の本質は変わっていません。彼にとってアートとは、感覚をひらき、人と人、そして目には見えない世界とをつなぐ手段であり続けているのです。

Beyond the Veil
キャンバスに油彩
72”x108”

キャンバスに広がる砂漠の光景

1987年以来、ミーシャエルはニューメキシコ州タオスの高地砂漠に暮らしています。この場所の空気や風土は、彼の創作の気配そのものに沁み込んでいます。自ら設計・建築した、太陽光と風力でまかなう完全オフグリッドの住まい。自給自足のこの生活は、自然との深いつながりを感じながら、静かにものを考える時間を与えてくれるのです。果てしなく広がる砂漠の風景と、刻一刻と変わる空の表情。その静けさと広がりは、都市にはない集中力をもたらし、彼の創作にのびやかな呼吸を吹き込んでいます。

この地の自然は、単なる美しい風景ではありません。ミーシャエルにとっては、制作と深く結びついた環境そのものです。都会の喧騒から離れた静寂の中で、彼は自分自身の内面に耳を澄まし、自然のリズムを作品へと溶け込ませていきます。人との距離があるこの暮らしは、むしろ思索を深める場となり、作品に宿る精神的な側面を育ててきました。自然とともに暮らすことで、彼の視点は磨かれ続け、個人の経験と、変容や超越といった普遍的なテーマとを結びつける作品が生まれていくのです。

最近では、長年思い描いてきた理想のアトリエを完成させました。高さ約2.7メートルの作品にも対応できる広い空間は、彼の新たな挑戦に応える場所となっています。絵画のスケールが大きくなったことで、より力強く、広がりのある表現が可能になりました。それでも彼は、小さなキャンバスに向き合う時間も大切にしています。タオスの風景がそうであるように、彼の作品世界にも「雄大さ」と「繊細さ」が共に息づいているのです。

Plant Medicine
キャンバスに油彩
48”x60”

ミーシャエル:かたちとヴィジョンの架け橋

ミーシャエルは、時代を超えて革新的な表現に惹かれてきました。その影響は、彼の作品全体に確かなかたちで刻まれています。ピカソ、ミロ、マティス、ゴーキーといったモダニズムの巨匠たちは、彼の美意識の土台をつくる存在であり、フォルムや色彩に対する果敢な姿勢は、今も彼の創作に息づいています。一方で、キース・へリングやジャン=ミシェル・バスキア、ケニー・シャーフといったアーティストの放つ生のエネルギーもまた、彼の作品に力強さと即興的な躍動感をもたらしています。こうした多様な影響を自らの中で消化しながら、ミーシャエルは、伝統に敬意を払いながらも、常に新たな表現の地平を切り拓いているのです。

彼のアートは、キャンバスの上にとどまることなく、さまざまなかたちへと展開しています。ジクレーや木版画、そして衣服として身につけられるテキスタイル作品など、形式を超えて表現の幅を広げています。アートをギャラリーの壁だけに閉じ込めず、もっと日常の中に息づかせたい——そんな想いから、彼は鮮やかで流動的なパターンやフォルムを、布や紙へと置き換えていきます。そうして生まれた作品たちは、より多くの人の手に届き、日々の暮らしの中に、ささやかで豊かな創造性との出会いをもたらしています。

現在、ミーシャエルは自身の大作を公共空間に展示する構想を進めており、建物の外壁に展開するプロジェクトにも意欲を示しています。また、音・映像・周波数などを組み合わせた没入型のアート体験にも取り組み続けています。油彩の大作から繊細な色鉛筆画、インタラクティブなインスタレーションに至るまで、彼が一貫して追い求めているのは、観る者の感覚を揺さぶり、目に見える世界と見えない世界が交差する空間へと誘うことなのです。

Merakesh
キャンバスに油彩
72”x108”