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「私は“美しい”ものではなく、“目に見えない”ものを描きたいのです。それは、鑑賞する人々が自身の記憶や物語、そして心に残る感情と向き合うきっかけになればと願っています。」

時代を超越する芸術家:セルジュ・テネーズが紡ぐ伝統と革新

フランスの画家セルジュ・テネーズ(Serge Teneze)は、古典的な技法を受け継ぎながら現代的な表現を追求し、芸術の新たな可能性を切り開いています。伝統的な油彩技法を基盤に、クラシックアートの緻密さと現代アートの力強さを融合させた作品は、多くの人々に深い感動を与えています。

長年にわたる活動を通じ、テネーズはヨーロッパやアメリカで幅広く評価されてきました。フランス・アンジェのギャラリーV12やブリュッセルのエスパスアートギャラリーでの個展では多くの注目を集め、さらに、サロン・ドートンヌやジロンドの芸術ビエンナーレといった著名な展覧会への参加を通じて、具象芸術の発展に貢献しています。また、パリ国立美術協会から授与された金メダルやブースナー社の創造トロフィーなどの受賞歴が、彼の作品が持つ高い評価を物語っています。

さらに、テネーズは創作活動にとどまらず、芸術教育や伝統技法の継承にも力を注いでいます。古代油彩技法に関する著作を通じてその知識を広める一方、現在執筆中の児童文学作品『ヌアージュ家の素敵な物語―色彩の発見(The Beautiful Story of the Nuage Family – Discovering Colors)』では、子どもたちに創造の楽しさを伝える新たな挑戦を続けています。こうした幅広い活動を通じて、彼は伝統と革新を結びつけ、芸術を通じた新しい対話を生み出しています。

セルジュ・テネーズ:具象から抽象へ、目に見えないものを描く挑戦

セルジュ・テネーズの作品には、記憶を巡る深い探求が息づいています。具象画から出発した彼は、徐々に抽象画へと移行し、目には見えないものの本質を描こうと模索してきました。その表現は、美しさを超え、人々の心に響く感情と知的な刺激をもたらします。

シリーズ『レゾナンス(Résonance)』では、場所が持つ記憶を、『モア=ポー(Moi-Peau)』では人生の出来事が残した傷跡を表現。『ルミエール・ノワール(LUMIÈRES NOIRES)』では、装飾を削ぎ落とし、個人の記憶に潜む繊細で純粋な感覚を追求しています。光と闇を交差させることで、喪失や懐かしさ、内なる静けさといったテーマが立ち現れ、観る者を物語の中へと誘います。

制作技法にも、記憶を掘り起こす彼の視点が反映されています。『アブストラクト(ABSTRACT)』シリーズでは、塗り重ねた絵具を削ることで、忘れ去られた過去を呼び覚ますような表現を試みています。このプロセスは、記憶が持つ曖昧さや儚さを象徴し、絵画に深みを与えています。彼の作品は装飾的な美しさを追求するのではなく、心の奥底に潜む真実へと迫り、観る者を自身の記憶や感情と向き合わせます。

創造の聖域:歴史が息づくアトリエ

セルジュ・テネーズのアトリエは、15世紀に建てられた礼拝堂を改装したものです。この由緒ある空間には、彼の伝統への深い敬意と制作へのこだわりが漂っています。静寂に包まれたこの場所は、創作に集中し、自身の内面と向き合うための特別な場です。ここでは、顔料やオイル、ワックスなどの素材が、精密に調合されます。一つ一つの工程が丹念に行われ、その徹底ぶりはまるで職人の工房のようです。こうして生み出される素材は、作品に奥行きと耐久性を与え、独特の色彩を引き立てています。

このアトリエは単なる作業場ではありません。伝統を守りながら新たな挑戦を続ける「創造の場」です。テネーズは、クロード・イヴェルやジャン=ピエール・ブラズから学んだ古典的な技法を受け継いでおり、リネンキャンバスにウサギ膠(にかわ)を塗る方法や、自ら調合した特製の黒いオイルを用いるなど、細部にまでこだわった制作を行っています。これらの技法は、彼の作品に比類のない深みと力強さを与えています。

また、制作中に音楽を取り入れることは、テネーズにとって特別なひとときです。礼拝堂という場所が持つ歴史的な重みと、厳選された素材や技術が融合したこの空間は、単なる制作の場を超え、深い精神的な対話を生み出す特別な場所となっています。『ランジュ・ノワール(L’Ange Noir)』のような大作も、この空間で生まれ、その神秘的なエネルギーは多くの人々の心を動かしています。

セルジュ・テネーズ:記憶の未来を描く挑戦

セルジュ・テネーズの創作は、これまでの実績にとどまらず、未来を見据えた新たな挑戦へと続いています。その一つが、『メモワール・セルテ、レ・セト・クロワ(Mémoire Celte, Les 7 Croix/ケルトの記憶―七つの十字架)』という壮大なプロジェクトです。このシリーズでは、光の99%を吸収する最黒の顔料を使い、キリスト教化された立石とケルトの象徴を対比させています。この表現は、アルツハイマー病が記憶を消し去るように、祖先の記憶が失われていく様子を描き出しています。

また、この作品を日本で展示するという構想は、彼の広い視野と日本文化への深い関心を物語っています。日本の文化や歴史との対話を通じて、彼のテーマである「記憶」をさらに深く掘り下げたいという思いが込められています。さらに、『ルミエール・ノワール』シリーズの三連作を公共の場に設置する計画も進んでいます。この取り組みは、個人の体験と社会全体の記憶を結びつけ、観る人々に新たな視点をもたらすことを目指しています。

セルジュ・テネーズは、新たな画材や技法を試しながら、記憶、感情、歴史といった普遍的なテーマを追求し続けています。その作品は、現代美術において独自の地位を築き、私たちの心に深い余韻を残すことでしょう。