「彫刻とは、色彩や形、質感を駆使しながら、光と影、リズム、そして立体感が織りなす美を表現する芸術です。」
光と影の詩情:ジェイソン・シーの歩み
ジェイソン・シー(Jason Shih)の創作の原点は、1972年に生まれ育った台湾の鹿港にあります。伝統工芸が息づくこの町で培われた美意識は、彼の創造の土台となりました。少年時代に台北市へ移り、民族小学校、明倫中学校、中正高校に通う中で、多様な芸術に触れる機会を得ます。1991年には国立台北芸術大学に進学し、彫刻を専攻。李光裕教授の指導を受け、1996年に美術学士号を取得しました。
軍務を終えた後、さらなる技術の向上を求めてアメリカへ渡ります。ロチェスター工科大学のアメリカ工芸学科で学び、彫刻家レナード・A・アーソーの指導を受けながら、2001年に金属彫刻で美術修士号を取得します。その後、アルバート・ペイリーの助手を務め、パブリック・アート制作の実務経験を積む中で、大規模な作品制作の技術を磨きます。
2002年に台湾へ帰国したシーは、80点を超える大規模なパブリック・アートを手がけ、国内外で高い評価を得ました。彼の活動は、韓国のワンサン開天祭やオーストラリアのジャムファクトリー、新北市立黄金博物館など、国際的な舞台にも広がっています。また、学術的にも優れた成果を上げ、中国美術学院で彫刻およびパブリック・アートの博士号、さらに国立台湾師範大学で経営学修士号を取得しました。
ジェイソン・シー:彫刻が語るもの
ジェイソン・シーの彫刻は、形を超えて光と影、リズム、そして立体感が織りなす調和を描き出します。彼の作品には、温度や匂いといった感覚的な記憶が込められ、鑑賞者に鮮烈な印象を与えます。抽象的な概念を感覚を通じて心に響く形で表現することこそ、彼の創作の核なのです。
彼のインスピレーションの源は、日常に潜む自然の美しさです。たとえば、肌をなでる海風や山霧に包まれる一瞬。そのような儚い情景を彫刻という形で永続的なものに変え、時間や空間の記憶を刻みます。その代表作のひとつ『Turning』は、チタン加工を施したステンレス鋳造によるもので、水面を滑る風の優雅な動きを生き生きと表現しています。
シーの作品は、自然が持つ静けさや力強さを凝縮し、鑑賞者に深い余韻をもたらします。ただ眺めるだけでなく、感覚と心に触れる特別な体験を届ける彫刻です。
形を超えて心を語る彫刻
ジェイソン・シーの彫刻は、複雑なテーマをシンプルかつ明快な形にまとめ上げる独特の魅力を持っています。東洋の感性と現代アートの技法が調和した作品は、緊張感あふれる構成と緻密なディテールが絶妙に調和し、観る者に多面的な視点と深い印象を与えます。
たとえば、『Dawn at Sea』は、希望と再生をテーマにした作品です。塗装されたABS素材を用い、夜明けの光が海に差し込む瞬間を描き出しています。光と水が織りなす動きを詩情豊かに捉え、自然の持つ静けさと力強さを感じさせます。
また、『Summer Flowers • Autumn Leave』は、詩人ラビンドラナート・タゴールの生命観に触発された作品です。生命の躍動と死の静寂という二面性を象徴的に表現したこのブロンズ作品は、自然界の循環を見事に捉えています。シーの彫刻を通じて、生と死という普遍的なテーマが静かに語りかけてきます。シーの彫刻は、単なる形の美しさを超え、人間の感情や哲学的なテーマを巧みに表現しています。その表現は、観る人の心に長く残り、思索を促す存在となっています。
ジェイソン・シー:影響とインスピレーション
ジェイソン・シーの創作活動は、現代舞踊やアヴァンギャルドなファッションといった多様な分野から影響を受けています。特に、ドイツの振付師ピナ・バウシュと英国のデザイナー、アレキサンダー・マックイーンは、彼の作品に大きなインスピレーションを与えました。バウシュの「時間」と「空間」に対する独自の探求は、シーが彫刻を通じて「動き」と「広がり」を表現しようとする理念と響き合っています。一方、マックイーンの大胆で独創的なスタイルは、シーの創作に新たな視点をもたらしました。
さらに、未来派や構成主義の美学も、シーの作品に深い影響を与えています。それらが追求する「動き」と「連続性」の表現は、彼の彫刻に鮮やかに反映されています。たとえば、代表作『Turning』では、滑らかな曲線と自然な質感が生み出すフォルムを通じて、静的な彫刻の中に流れるような運動感を宿しています。この作品は、自然界に見られるエネルギーと調和を形にしたものといえるでしょう。
シーは彫刻という表現手法に留まらず、自然界が持つ力強さや優雅さを新しい形で捉えようと挑戦を続けています。その結果、彼の作品は彫刻の枠を超え、鮮明な感動と新たな解釈をもたらしています。