「時には、まったく予想していなかった色を突然使うことがあります。その色に導かれるように形を追い、さらに別の形を重ねていくうちに、いつの間にか抽象的な作品が生まれます。そして、その作品が主題の感情を鮮やかに引き出していると感じたとき、それが“正しい”と確信できるのです。」
グレンナ・ミルズ:変化に導かれた創造の世界
Glenna Miグレンナ・ミルズ(Glenna Mills)は、その人生を通じて、創造の中に変化を取り入れ続けてきたアーティストです。幼少期を農場で過ごし、犯罪学を学ぶ学生時代を経て、視覚芸術、執筆、ナレーションへと活動を広げてきました。これらの多彩な経験が、彼女の表現を深める土台となっています。音楽やパフォーマンスへの興味をきっかけに、写真や彫刻、絵画へと探究の幅を広げる中で、彼女は変容の力を作品に取り入れることで、独自の芸術観を築いてきました。伝統的な技法と実験的な表現が交錯する作品には、個人的な歴史や感情が自然に織り込まれています。
制作の原点は、家族の肖像や歴史上の人物など、親しみやすいテーマにあります。しかし、それらは彼女の手によって、色彩や質感の重なりを通じて大胆な変化を遂げます。こうした作品は、鑑賞者の想像力を刺激し、「目に見えるもの」と「目に見えないもの」、「知っていること」と「未知の世界」との間で対話を生み出します。粘土を用いた彫刻や加工を施した大判の写真作品を通じて、ミルズは新たな視点を提示し続けています。その表現は、身近さと想像の広がりを見事に組み合わせ、独創的な世界を次々と生み出しています。
グレンナ・ミルズ:変化と表現が紡ぐ創造の軌跡
グレンナ・ミルズの芸術的な歩みは、犯罪学から視覚芸術への予期せぬ転換から始まりました。この大きな変化が、彼女の創作の基盤となりました。大学在学中、社会学への関心を抱いていた彼女は、やがて写真や映画制作の魅力に引き込まれます。特に、スタン・ブラッケージやジェームス・ホワイトといったアヴァンギャルド映画作家たちの作品に触れ、従来の物語形式を超えた新しい表現の可能性を感じ取ります。彼らの実験的な映像手法は、彼女に未知の領域へ挑むきっかけを与えました。
その後、映画制作を専門とする美術修士課程に進学し、映像における動きや構成に対する感覚を磨きました。しかし、次第に興味は彫刻へと移り、粘土を素材に用いる制作に専念するようになります。彫刻は、映画とは異なり、手で直接素材に触れながら形を作る実感が伴うものでした。この体験は、彼女にとって新たな創作の楽しみを与えただけでなく、変化や融合といったテーマを探るきっかけとなりました。彼女の代表作の一つである『ゴーイング・ウェスト』では、馬に乗る女性たちの姿を通じて、力強い物語性を表現しています。
映画から彫刻への転換は、写真や映像への興味を失ったわけではありません。それはむしろ、さまざまな媒体を通じて物語を表現する方法を模索する過程でした。こうした活動の中で、ミルズは変化し続ける表現の可能性を追求し、独自の芸術世界を築き上げています。
時を超えてよみがえる家族写真
近年、グレンナ・ミルズは古い家族写真を題材にした作品に力を注いでいます。この取り組みは、焼成窯を手放し絵画制作に専念するようになった頃に始まりました。療養生活を送る中で、彼女は長年集めてきた先祖の写真に心を惹かれるようになります。セピア色に染まり、時の経過で色褪せたそれらの写真には、語られることのない物語が潜んでいました。
ミルズは写真をデジタルで加工し、顔立ちや衣服、背景に手を加え、新たな生命を吹き込みました。このプロセスは単なる美的表現の追求にとどまらず、彼女自身の深い感情とも結びついていました。加工した写真をキャンバスに転写し、さらに絵筆を加えることで、彼女は失われた先祖たちの姿を再び現在によみがえらせました。たとえば、『バイゴン・デイズ』と題された作品では、家族の家を背景に、抽象化された人物のイメージを重ねることで、過去と現在が交わる空間を作り出しました。
こうした作品を通じて、ミルズは記憶やアイデンティティ、家族の遺産といった普遍的なテーマを掘り下げています。彼女のアプローチは、鑑賞者に自身の過去とのつながりを問いかけるだけでなく、歴史が静止したものではなく、絶えず形を変える流動的なものであることを表現しています。彼女が手がけるこれらの写真は、単なる記録ではありません。時間や感情をめぐる対話を生む、生きたキャンバスなのです。
グレンナ・ミルズ:直感と緻密さが生む芸術
グレンナ・ミルズの創作活動は、直感を大切にしたアプローチが特徴です。彼女は粘土やキャンバスに向かいながら、その瞬間に感じたままに手を動かします。このプロセスを通じて、感情や潜在意識が形となり、作品に表れます。しかし、単なる感覚的な作業ではなく、全体のバランスや細部の仕上げに注意を払いながら制作を進めていきます。たとえば粘土彫刻では、素材の自然な形状を尊重しつつ、必要に応じて細部を丁寧に整えることで完成度を高めています。
絵画でも同様に、彼女は予想外のアイデアや思いがけない色彩を受け入れることを重要視しています。大きなキャンバスに向き合いながら、偶然の要素を取り入れつつ、作品全体の調和を図る過程は、挑戦的でありながら大きなやりがいを感じる瞬間でもあります。作品が完成に近づくにつれ、不安を感じることもあるものの、そのリスクを受け入れることで、深みのある表現が生まれます。彼女の大胆な創作姿勢が、感情的な奥行きを持つ作品を生み出す原動力となっています。
また、創作以外の実務的な課題にも向き合っています。広いスタジオや専任のアシスタントがいない中、夫の協力を得ながら作品の搬送や販売を手掛けています。そのサポートは、彼女が創作に専念するための大きな支えとなっています。こうした実務と創作を両立させる努力が、彼女の芸術をさらに深める原動力となり、その進化は今も続いています。情熱を持って生み出されたミルズの作品は、観る者の心に深い余韻を残します。