「私の作品にひとつテーマがあるとすれば、それは、すべてがつながっているということです。人間も、それ以外の生き物も、決してこの世界をひとりで生きているわけではありません。」
異なる二つの視点、ひとつの共通する目的
イリアナ・サン(Iliana Sun)は、科学と芸術という異なる領域を行き来しながら制作を続けています。デューク大学では生物学を学び、学部生の頃からヒヒや爬虫類、キツネザル、さらに捕鯨が歴史的に残してきた影響などを研究してきました。そこで身についたのは、対象をじっくり観察し、好奇心を持ち、すぐに答えを出そうとせず、わからないことと向き合い続ける姿勢です。やがてアートに取り組むようになると、数値や測定だけでは捉えきれない経験を表現する方法も手にしました。科学から得た分析的な視点と、芸術によって育まれた感覚の両方が、現在の彼女の制作には生かされています。そしてその作品は、人間と自然との関係を、いつもとは少し違った角度から見直すきっかけを私たちに与えます。
サンの作品に一貫して流れているのは、あらゆる生命は互いに関わり合いながら存在しているという考えです。自然保護や生態系への関心は制作の大切な軸ですが、直接的に訴えかけるのではなく、丁寧に組み立てた体験として伝えています。科学から得た知識を、見る人の感情にも届くかたちで伝えたいと考えているからです。意味のある変化は、気づきを重ねるなかで少しずつ生まれていくと考えています。その考え方は、彼女が惹かれている自然の時間の流れにも通じています。大きな変化を一気に起こすことより、時間をかけて残っていくものを大切にする姿勢です。生物多様性の大切さをより深く感じるためには、まず判断を急がず、目の前にあるものをよく見ること。その考えは、作品が生まれるまでの過程にも表れています。
こうして生まれる作品には、科学への好奇心と、芸術に向き合う開かれた姿勢と、芸術ならではの豊かな表現が自然に共存しています。サンは写真、ドキュメンタリー映像、インスタレーションを使い分けながら、生態学の研究から得たものを、見る人が実際に感じられる体験へと変えていきます。事実を観察することと想像することを別々に考えるのではなく、両方を組み合わせることで、それぞれの良さを引き出しているのです。どの作品にも共通しているのは、目の前にあるものを急いで判断せず、時間をかけて見るという姿勢です。鑑賞者もまた、少し立ち止まり、普段なら気づかずに通り過ぎてしまう生き物同士の関わりに目を向けることになります。科学への好奇心と、アートだからこそできる自由なものの見方。その二つを重ねながら、サンは生命同士のつながりと、そこに生きる私たちが共有する責任について考え続けています。
イリアナ・サン:結論ではなく、星座を描く
サンの作品には、ひとつの答えに絞り込むのではなく、異なる視点を並べて見せるという特徴があります。その出発点となったのが、アメリカアカオオカミを題材にした初期の大きなプロジェクトでした。これは彼女にとって初めての映画作品へと発展し、同時に、絶滅の危機にある生き物への長年にわたる関心の始まりにもなりました。その後に制作したドキュメンタリー《When We Say Vaquitas What Are We Talking About》(「コガシラネズミイルカ」と言うとき、私たちは何について話しているのか)では、絶滅の危機がきわめて深刻なコガシラネズミイルカを取り上げ、生物学者、漁師、活動家、学生それぞれの声からその状況を見つめています。異なる立場からの意見をひとつにまとめることなく併置することで、簡単な結論を出すことを避けながら、生態系をめぐる現実の複雑さを伝えています。どれかひとつの物語だけを正解として扱わない姿勢は、今ではサンの制作を特徴づける重要な要素となっています。
作品全体を一貫しているのは、あらゆるものが互いにつながっているという考えです。サンは、人間を自然の外側から眺める存在として描くのではなく、すべての生き物がより大きな生態系の一部として生きていると捉えています。生物多様性、移動、環境を守る責任、そして異なる種どうしを結ぶ壊れやすい関係は、写真やドキュメンタリー、インスタレーションに繰り返し登場するテーマです。ただし、それらを直接説明したり教訓として示したりするのではありません。空気感や構図、物語の組み立て方を通して、静かに伝えています。豊かな自然の色彩、細やかに考えられた構図、焦点の置き方、そして仕草への注意深いまなざしが、鑑賞者に一枚一枚のイメージを時間をかけて見るよう促し、画面に写っているものだけでは収まらない感情的なつながりへと気づかせます。
インスタレーションでは、こうした考えをさらに発展させ、ただ眺めるだけではなく、鑑賞者自身が関わることのできる空間をつくっています。写真に自然素材や拾い集めた物、立体物、さまざまな質感を組み合わせ、近年ではAIも取り入れながら、生態系の関係性を感じられる没入型の空間を構成しています。そこでは、記憶、共存、環境の中で互いに依存し合う関係を、実際にその場に身を置きながら体験することができます。科学的な概念も、頭で理解するだけのものではなく、身体ごと入り込める体験へと置き換えられています。そのため鑑賞者は、空間的にも感情的にも、その考えを体験できるようになります。こうした多面的なアプローチからも、観察によって得たものを実際の体験へとつなげようとするサンの姿勢がうかがえます。
静かに教えてくれる存在と、心に残る出会い
サンに大きな影響を与えてきたのは、ものを見るという行為そのものへの考え方を変えた人々や経験です。写真家ジョエル・サートレイから学んだのは、絶滅の危機にある動物を何かの象徴として扱うのではなく、一頭一頭を、それぞれ固有の存在として見ることの大切さでした。一方、物理学者ブライアン・コックスからは、宇宙の途方もなく長い時間の流れに目を向けることで、その壮大さに圧倒されるのではなく、人間という存在の小さささえも驚きや好奇心につなげて捉える視点を学びました。こうした影響は、身近な生き物との関係から宇宙的な時間の広がりまで、さまざまな尺度から環境について考えようとするサンの姿勢にもつながっています。鑑賞者にとっても、生命が異なる大きさや時間の流れのなかで互いにつながりながら存在していることに目を向けるきっかけとなっています。
動物たちを静かに見つめる時間も、サンに多くのことを教えてきました。Animal Park NCでオオカミやライオンと過ごすことは、今では彼女にとって大切な学びのひとつとなっています。そこでは、動物に何かをさせることも、その行動に説明を求めることもありません。ただ別の種の生き物と同じ場所で時間を過ごすことで、待つこと、静かにいること、そして互いの存在を感じること自体が、ひとつのコミュニケーションになります。サンは、こうした出会いによって、哲学を学ぶだけでは得られないほど深く自分の視点が整えられると語っています。そして、どの生命にもそれぞれの歩みがあり、その途中で無数のほかの生命とほんの一瞬出会うことがあるという考えを、あらためて確かなものにしています。
その考えがとりわけ強く表れているのが、サン自身も特に思い入れのある作品として挙げる《Everything In Between》(すべてのあいだにあるもの)です。着想のもとになったのは物理学における「世界線」という概念で、ひとつの生命が空間と時間のなかでたどる軌跡を表しています。このプロジェクトは写真とインスタレーションの両方で展開されています。写真に収められているのは、サン自身の軌跡と一頭の動物の軌跡がほんの一瞬交わった場面です。単に動物を記録するのではなく、その瞬間に互いが相手の存在に気づいたことに焦点が置かれています。インスタレーションでは、宙に張られた糸と移り変わる光によってその発想が空間全体へと広がり、鑑賞者自身も作品の一部として関わることになります。そこにひとつの答えが示されることはありません。二つの存在が同じ瞬間に互いへ意識を向けたとき、そのあいだでは実際に何が交わされているのか。その問いを、答えのないまま残しているのです。
イリアナ・サン:つながりが生まれる場所をつくる
サンの制作は、毎日決まった手順から始まるわけではありません。その日の状況や偶然の発見を受け入れながら、柔軟に制作を進めています。即興的な試みや旅の途中で思いがけず着想を得ることもあれば、何かを期待することなく、ただ長い時間動物を観察するなかからアイデアが生まれることもあります。写真とドキュメンタリーは現在も制作の軸ですが、インスタレーションや素材の質感を生かした表現、AIなども取り入れながら、新しい方法を試し続けています。表現の幅が広がるにつれ、複雑な科学の考え方も、鑑賞者が実際にその空間に入り、身体で感じられるものとして表現できるようになりました。サンはそれぞれの媒体を別々のものとして捉えるのではなく、扱うテーマの感情的な側面と生態学的な側面を最もよく伝えられる方法を、その都度選んでいます。
こうした制作の広がりには、芸術と科学研究の境界をなくしていきたいというサンの考えが表れています。ただし、どちらかをもう一方に寄せるのではありません。それぞれの本来の性質を保ちながら、両者が互いをどのように豊かにできるのかを探っています。ドキュメンタリーによる観察は、作品を事実に基づいたものにします。一方、詩的な表現を加えることで、数値やデータだけでは捉えられないことにも目を向けられるようになります。作品の中に一つの答えを用意するのではなく、見る人が自分で興味を持ち、共感し、じっくり考えられる余地を残しています。科学的な厳密さと詩的な感性を自然に両立させているところも、異なる分野を横断するサンの作品の大きな特徴です。そのため、知的な刺激がありながら、感情の面からも無理なく作品に入っていくことができます。
これからサンが目指しているのは、つながりを描くだけでなく、作品を通して実際につながりが生まれるところまで制作を発展させていくことです。科学と芸術のつながりを作品として示すだけでなく、科学と芸術の結びつきを、鑑賞者自身が実際に体験できる空間をつくりたいと考えています。これまで取り組んできた自然保護や生態系への関心、物語を視覚的に伝える表現も、鑑賞者が直接参加できる体験へと広げていこうとしています。科学の考え方を共感と注意深い観察を土台にした没入型の体験へと変えることで、イリアナ・サンは、生きものの世界により深く目を向けるきっかけをつくっています。そしてそこには、大切な関係は、まず相手をきちんと見ることから始まるという考えが一貫してあります。




