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「私にとって、自立と自由はとても大切なものです。心が向くものだけに取り組みます。そうでなければ、やりません。」

静かな目覚め:秘めた創作の日々から、世界へとひらかれた扉

クリスティーナ・ミッターヒューバー(Christina Mitterhuber)がアートと向き合い始めたのは、2018年に初めて作品を公にするずっと前のことでした。長いあいだ、絵を描くことはごく個人的な行為であり、その世界を誰かと分かち合うこともなく、静かに筆を重ねていたといいます。けれども、あるとき不思議と「今なら」と思える瞬間が訪れ、彼女は初めて作品を世に送り出します。それは、何か明確な理由があったわけではなく、ただ心の奥でそっと何かが整った、そんな感覚だったと振り返ります。その扉をひとたび開くと、彼女のまわりには驚くほど多くの機会が舞い込み、わずか6年のあいだに、世界各地で200を超えるプロジェクトに携わってきました。

この大きな変化に対する感謝の思いは、彼女の言葉の随所からにじみ出ています。自身の活動を支えてきた多くの人々や団体の存在を挙げるなかで、とりわけ思いがけない場所で作品が受け入れられたことへの喜びを強調します。なかでも日本は、特別な憧れを抱く国であり、文化をつなぐ架け橋のような存在として、いつか訪れたいと語ります。作品を世に出すということは、大きな歓びであると同時に、少なからず覚悟を伴うものでした。国際的な展覧会やアートイベント、アワードへの参加は、決して平坦な道のりではなかったといいます。それでも、そうしたひとつひとつの経験が、彼女の表現を深め、確かな変化をもたらしてきたのです。

クリスティーナ・ミッターヒューバー:世界に育まれた眼差し

オーストラリアや北米での暮らしは、クリスティーナ・ミッターヒューバーの視野を大きく広げました。異なる文化に身を置くなかで、彼女はこれまで知らなかったゆるやかで穏やかな空気に出会い、それはヨーロッパで育った自身の感覚とはまったく異なるものでした。どのように作品に影響しているかを深く考えたことはないとしながらも、風景や人々の気質、そしてその土地に流れる静けさは、創作に何らかの痕跡を残しているはずだと語ります。

なかでも忘れがたい体験のひとつが、ニューヨークでのグループ展でした。ピカソ、ミロ、マティスといった巨匠たちの作品と並んで自身の絵が展示されたこの場は、彼女にとって特別な意味を持ちます。その経験は、ミッターヒューバーの作品が国や時代を越えて響く力を持つことを、改めて確かに感じさせるものでした。そして、自身が歩んできた旅のすべてが、自然と作品のなかににじみ出ていることにも、ふと気づかされるのです。

多忙な日々のなかでも、各地の展覧会に足を運ぶことは、彼女にとって大きな喜びです。どの訪問先も新しい出会いや刺激に満ちていて、そのひとつひとつが創作の源になっていく。展覧会に立ち会う時間は、作品だけでなく、自分自身が「今この瞬間の美しさ」を深く味わうための大切なひとときでもあるのです。

『WE in RED』シリーズ:情熱と感性が響き合うヴィジュアル・シンフォニー

クリスティーナ・ミッターヒューバーの『WE in RED』シリーズは、深く湧き上がる感情をそのまま絵に映し出したような作品群です。大小さまざまなサイズのキャンバスに描かれた100点の油彩画からなり、情熱や音、音楽といったテーマが鮮やかに表現されています。彼女自身、このシリーズを「人生のなかにある美しい音を讃えるもの」と語り、愛や感情の響きに耳を傾けるような作品だと言います。力強い筆致と鮮烈な色彩によって描かれた画面には、観る人それぞれの感情に語りかけてくるような力があります。

このシリーズは、イタリアのCAM美術館やパラッツォ・エロリでの個展をはじめ、アートエキスポニューヨークなど世界各地のアートフェアでも高く評価されてきました。『WE in RED』はミッターヒューバーの代表作として、多くの人々に親しまれています。彼女が自らの感情に誠実に向き合いながら描いた作品が、国や文化を越えて人々の心に届いていることは、まさにその証しといえるでしょう。

制作の過程もまた、このシリーズの魅力の一部をなしています。ミッターヒューバーは絵を描く時間を、音やエネルギーがそのまま色やかたちに変わっていくような、生きた体験だったと語ります。一枚一枚の作品が、その瞬間に感じた響きを受け止める器のような存在なのです。視覚と聴覚、異なる感覚が溶け合うこのシリーズには、アートがどのように感性の境界を超えていけるのか──その可能性を感じさせる静かな挑戦が込められています。

クリスティーナ・ミッターヒューバー:リアルとデジタル、ふたつの現実をつなぐ

デジタル化が進むなかで、クリスティーナ・ミッターヒューバーはリアルとバーチャル、双方の場を活かしながら、自身の作品を世界へと届けています。彼女はデジタル展示の持つ可能性を高く評価しており、たとえばニューヨークのタイムズスクエアのビルボードや、ビッグスクリーン・プラザで作品が映し出された瞬間を印象深く振り返ります。こうした経験は、作品をさまざまな場所へ届けたいという思いが、かたちになったと感じられる特別な瞬間でもありました。

カナダで開催されたオンラインでの個展や国際的なデジタルグループ展への参加、さらには受賞歴など、ミッターヒューバーはデジタルの世界でも着実に実績を重ねてきました。その一方で、こうした空間の開かれた性質を受け入れつつも、自身のペースを大切にすることも忘れずにいます。

実際の会場での展示は、今もなお彼女の創作活動の中心にあります。イタリア、アメリカ、そして東京など、どの地であっても、作品を通じてその土地の文化や人々と直接ふれあえることに、彼女は深い喜びを感じています。ミッターヒューバーにとって、リアルとデジタルというふたつの領域は、単なる流行ではありません。アーティストが観客とつながる方法が多様化するなかで、それぞれの場に新たな意味と可能性が広がっているのです。

大阪での展覧会のお知らせ

クリスティーナ・ミッターヒューバーは、9月30日から10月5日まで大阪府立江之子島文化芸術創造センターで開催される「AVAアートフェスティバル」に出展いたします。本展は、日本で初めて彼女の作品が公開される貴重な機会となります。これまでにも2023年の東京タワー・アートフェアなど、デジタル形式での参加はありましたが、今回は日本で初めて、リアルな会場での作品展示が実現します。ミッターヒューバーにとって、日本における重要な節目となる展覧会です。

会場:

Capital Culture House – 大阪府立江之子島文化芸術創造センター(enoco)
〒550-0006 大阪府大阪市西区江之子島2-1-34