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「絵は、ただの装飾であってはいけない。見る人の心を励まし、癒し、そしてその人だけの個性を映し出すものであるべきだ。」

感情をキャンバスに宿すアート

ナンドール・ボジョーキ(Nándor Bozsóki、アーティスト名:Bozsóki Art)は、感情をキャンバスに描き出すことに情熱を注ぎ続けてきました。キャリアの始まりは、壁面装飾の制作。しかし、アクリル絵具の色彩と質感との出会いをきっかけに、彼の表現はより内面に根ざしたものへと変化していきます。現在はスタジオで制作に専念し、日々キャンバスと静かに向き合っています。描くことは彼にとって職業ではなく、喜びを追い求める行為そのもの。直感と対話を手がかりに、ひとつのヴィジョンがゆっくりと形をとっていきます。そこには、美しさと心理的な深さが、自然に織り込まれているのです。

妥協を許さない姿勢は、ボジョーキの作品づくりの核にあります。その厳しさはアートに限らず、日々の暮らしの細部にまで及びます。わずかなディテールにも徹底してこだわり、常に「もっと良くできるはず」と問いかける姿勢。その積み重ねが、繊細さと力強さを併せ持つ独自の作風を生み出しています。依頼者のもとに届く作品は、単なるインテリアではありません。それは、その人の物語の一部となる、かけがえのない存在です。

アクリルを中心に用いながらも、制作に使われる道具や素材は多彩です。ペインティングナイフや装飾的なツールを巧みに取り入れ、作品には豊かな手触りと動きが生まれます。同じテーマであっても、二つとして同じ絵はありません。それぞれの作品は、依頼者との対話のなかで育まれ、アーティストの美意識とクライアントの感情が交差する、唯一無二の存在となるのです。それは、空間にしっくりと馴染みながら、そこに込められた想いを映し続けるアートなのです。それは、時間とともに深まり、長く寄り添い続けてくれるでしょう。

ナンドール・ボジョーキ:共鳴から生まれる、創造の独立性

ボジョーキの創作は、いつも「聴くこと」から始まります。彼にとって絵を描くという行為は、ひとりのひらめきから生まれるものではなく、依頼者との対話から育まれるもの。制作の過程は、絶えず変化していくコミュニケーションであり、そこに宿る感情や想いが、作品へと静かに注ぎ込まれていきます。自身の芸術的な声をしっかりと持ちながらも、その中に他者のビジョンや夢、心の揺らぎを受け入れる余白を大切にしているのです。目指しているのは、空間を飾ることではなく、その場所に生きる人のエネルギーをかたちにし、作品がその人自身の一部となることです。

アーティストと依頼者のあいだに生まれるこの共鳴こそが、ボジョーキの作品に深い感情の重みをもたらしています。彼は、視覚芸術は目を楽しませるだけでなく、心を養い、無意識に語りかける力を持つべきだと信じています。彼の作品は、ただ壁に掛けられる物ではありません。それは空間の中で静かに、あるいは力強く作用し、見る人の心を癒し、奮い立たせ、時に目覚めさせる「存在」として、日々をともにするのです。記憶の断片、希望の兆し、自身の成長へとつながる入り口——そうした内なる振動に呼応するかのように、ボジョーキの作品は描かれます。

その創作姿勢を象徴する作品のひとつが、『Awakening(目覚め)』です。スペイン・バルセロナのラ・ペドレラ カサ・ミラ・ギャラリーに出展されたこの作品は、心と魂がひとつになる瞬間を描いています。そこには、「本質への気づき」というテーマが込められており、自己認識とは単なる個人的な体験ではなく、それが世界との関係を変えていく契機にもなり得ることが示唆されています。ボジョーキにとってこの『Awakening』は、人がよりよく他者と関わるために、まず自分自身と深くつながる——その旅路の大切さを物語る、視覚的な証なのです。

水平という選択と、創作における自由

ボジョーキの技法を特徴づけているのは、使う素材そのものだけでなく、それとの向き合い方にあります。彼は伝統的なイーゼルを使わず、大きなテーブルにキャンバスを水平に広げて描きます。この「横向きのアプローチ」は、絵に込められるエネルギーや動きの質そのものを変える選択であり、作品に独特の躍動感と奥行きをもたらしています。表面との一体感を生みやすく、質感や流れのコントロールがより繊細に行えるこの手法は、彼の創作に対する没入的な姿勢、そして過程そのものを自由に変化させていく柔軟な精神を象徴しています。

スタジオに並ぶ道具たちは、そのインスピレーションの幅広さを物語ります。主にアクリルを使いながらも、パレットナイフや一風変わった道具を取り入れることで、表面にユニークな痕跡を残します。こうした自由な試みは、単なる思いつきではなく、彼の表現を進化させるための大切なプロセスなのです。新しい技法や未知の手法に挑むことで、素材は単なる手段を超え、作品をともにつくり上げる「共作者」となります。その結果、彼の作品群には一貫性と多様性が共存し、見るたびに新たな表情を見せてくれます。

内に抱く強い創作衝動を原動力としながらも、ボジョーキの成長は外からの刺激によっても表現に奥行きを加え続けています。正式な師のもとで学んだ経験はありませんが、ハンガリーの画家タマーシュ・ナーレイやラースロー・ヘフテル、日本の巨匠・尾形月耕や高橋松亭といった存在から静かな影響を受けています。その影響は作品の構成や佇まいの中にさりげなく表れ、ハンガリーの伝統と国際的な美意識が溶け合う独自の視点を生み出しています。新たな制作ごとに内面を見つめ直し、同時に世界へと感覚を開いていく——その姿勢こそが、彼の作品を決して停滞させることなく、筆を重ねるごとに変化させているのです。

ナンドール・ボジョーキ:夢と現実のあいだを描く

創作は、彼にとって、夢が少しずつ姿を現す場所です。スタジオは単なる作業場ではなく、想像が輪郭を持ち、感情が目に見えるかたちとなって表れる「可能性の器」。彼の創作人生は、決められた道をなぞるものではなく、終わりなき探求の旅だといえるでしょう。依頼主ごとの思いに応える現代絵画の分野で、すでに確かな地位を築いている彼ですが、成長への欲求はとどまることを知りません。ワークショップへの参加やアーティスト同士の交流を通じて、自らの技術を磨き、感性を広げていくことに意欲を燃やしています。

視野は、個別の依頼や単発のプロジェクトにとどまりません。ボジョーキが思い描くのは、ただ誰かとともに作品をつくることではなく、互いを刺激し、高め合い、支え合うような創造的なコミュニティのあり方です。こうした協働への開かれた姿勢は、アートに対する彼の根本的な哲学を映し出しています。すなわち、アートはアーティストのアトリエの中に閉じ込められるものではなく、人と人とのつながりを通じて広がり、生きていくべきだという信念です。その開かれた感性があるからこそ、彼の作品は決して静止することがなく、対話と共有のなかで、絶えず進化し続けるのです。

個人からの依頼作品であれ、展示空間での大作であれ、ボジョーキのすべての創作に共通しているのは、視覚で語る表現への深い信頼です。静けさを描くときも、記憶や変容を表すときも、彼の作品は観る者を内なる世界へと誘い、慌ただしい日常の中で立ち止まり、ふと心を見つめ直す時間を与えてくれます。キャンバスを水平に広げ、ひと筆ひと筆に思いを込めるたびに、ボジョーキが描いているのは、単なる「絵」ではありません。それは、内なる感情と外の世界をつなぐ橋であり、人が自らの真実を色とかたちの中に見いだすための、静かな導きでもあるのです。