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「紙に描いたパステルと写真を重ね合わせることで、私なりの新しいアッサンブラージュを探ってきました。色と光、そして奥行きが織りなす空間に、自然の美しさを感じていただけたら嬉しいです。」

芸術とともに歩む人生

ニュージャージーを拠点に活動するアーティスト、ナンシー・ストーブ・ロークリン(Nancy Staub Laughlin)。その創作の原点は、自然豊かなコネチカットで育まれた幼少期にあります。フィラデルフィアのムーア美術大学で美術学士号を取得後、ニュージャージーにあるジョンソン・アトリエで2年間の技術彫刻の研鑽を積みました。そこで学んだブロンズ鋳造の高度な技術は、彼女を本格的なアートの道へと導く大きなきっかけとなりました。

ガーデニングや屋外で過ごす時間をこよなく愛するロークリンにとって、自然とのつながりは創作の核を成すものです。光のきらめきや反射への強い関心とともに、彼女は風景や気象現象のもつ複雑さや美しさを作品の中に凝縮させていきます。その視点は、単なる自然描写を超えた、新たな風景のかたちを提示しています。

創作は、彼女にとって生まれながらの衝動に近いもの。幼い頃からその表現欲求は明確で、常にアートが人生の指針でした。時とともに作品は進化を続けていますが、自然と向き合い、物語を紡ぐ姿勢は一貫しています。

ナンシー・ストーブ・ロークリン:独自のアートフォームを切り拓く

ロークリンの作品は、既存のカテゴリーに収まるものではありません。パステル画と写真を融合させた独自のアッサンブラージュという表現手法によって、彼女は色彩、光、質感が幾層にも重なる鮮やかな世界を生み出しています。そこには、奥行きと躍動感に満ちた風景が立ち現れ、鑑賞者を異なる視点へと誘います。

彼女の制作プロセスは非常に緻密で、ひとつひとつの作品は段階的に構築されていきます。自然の要素と技術的なアプローチを融合させることで、生命力のある表現を可能にしているのです。

制作において欠かせないのが、アトリエに設置された大型のアクリル板。そこにソフトパステルを自在に操りながら、流れるような線と色彩を描き出していきます。制作中は音楽やポッドキャストが流れ、集中力と静けさが同居する環境の中で、彼女特有の発光するような色彩が形になっていきます。

影響と共鳴:唯一無二のスタイルの源泉

ロークリンが敬愛するのは、情熱とスタイルを一貫して貫くアーティストたちです。デイヴィッド・ホックニー、キャロリン・ブレイディ、マティス、モネ――それぞれの作家が持つ美意識と誠実な姿勢が、彼女の創作に深い影響を与えてきました。

なかでもホックニーのプール・シリーズには格別の思い入れがあります。水というモチーフに惹かれる彼女にとって、ホックニーの大胆かつ詩的な表現は、光と質感への探求を続ける自らの作品と深く響き合う存在です。

多彩な素材を探りながら、ロークリンがたどり着いたのはソフトパステルでした。繊細でやわらかな質感、そして内側から光を放つような発色が、彼女の表現にぴたりと重なったのです。そこに写真の持つシャープな輪郭を加えることで、画面全体に緊張感と奥行きが生まれています。

ナンシー・ストーブ・ロークリン:既成概念を超えて描くアートの可能性

ロークリンは、常に自身の限界を押し広げようとしています。現在構想しているのは、美術館への設置を前提とした壁一面に及ぶ巨大な三連作。これまでの創作の延長線上にありながら、スケールとコンセプトを大きく飛躍させる試みです。

この野心的なプロジェクトに向ける真摯な姿勢には、彼女の探究心と創造への揺るぎない情熱があらわれています。常に新しい表現を模索しながらも、その芯には一貫したスタイルが息づいています。

ナンシー・ストーブ・ロークリンは、創作への情熱とともに、人の心を動かしたいという想いを強く持ち続けてきました。自然の儚さとアートの持つ永続性を重ね合わせながら、彼女の作品は、個人の感情にも、より普遍的な感覚にも静かに響きます。繊細なドローイングからスケールの大きなインスタレーションまで、彼女の表現は観る者を惹きつけ、その世界へと引き込んでいきます。現代アートの中でも際立った存在として、その声は今後も揺るぎないものとなっていくでしょう。