「それ以来毎日、この決断が正しかったと感じています。ここにいると、心が満たされるのです。」
氷とインクに導かれて:オスロから世界の果てへ
ロバート・セルフォース(Robert Selfors)は、アーティストであり、コミュニケーターでもあり、創作という行為に深く魅せられたマルチクリエイターです。デザイナー、写真家、映像作家、起業家、ブランド戦略家として、ノルウェーの首都オスロで30年にわたり視覚コミュニケーションの分野で豊かなキャリアを築いてきました。デザインとグラフィック表現を専門的に学び、写真やデザインの革新性、そして起業家としての実績において高い評価を受けてきました。しかし、都市の洗練された景色とは異なる場所にこそ、彼の表現の原点がありました。それは、彼の原風景として深く刻まれている、手つかずの北極の自然です。
2019年、セルフォースは大きな決断を下します。オスロを離れ、ノルウェー北部の故郷へ戻ったのです。それは思いつきではなく、都市の生活リズムが自身の感覚とずれていく中での、必然ともいえる選択でした。海外から戻るたびにその違和感は強まり、都市の風景に対する身体の拒否反応のようなものが芽生えていたのです。少年時代に親しんだ広大で静かな北の大地へ帰ることで、彼は安らぎだけでなく、雪原や凍った川、太陽の昇らない空から湧き出る尽きることのないインスピレーションを取り戻しました。その土地との強く純粋なつながりが、彼の創作の核となり、筆を走らせるたびに自然との対話が生まれていきます。
セルフォースにとって、創作とは本能であり、同時に受け継いだ資質でもあります。言葉を得る前から、アートは彼にとって避難所であり、世界とつながる手段でもありました。ディスレクシアに苦しんだ幼少期、教室は試練の場であり、音読は劣等感をあらわにする行為でした。けれども絵を描くことで、言葉を介さずに自分を表現できるようになり、彼のスケッチに可能性を見出した教師たちがその才能を認めてくれました。その経験が、創作への自信と原点を築くきっかけとなったのです。いまや「自分の楽園」と呼ぶ地に暮らすアーティストとして、彼は子どもの頃と同じまなざしで北極を見つめ続けています。彼にとってアートとは、記憶や場所、自分自身との対話であり、原点へと立ち返るための静かな営みなのです。
ロバート・セルフォース:風景と想像のあわいにて
セルフォースは、自身の作品を特定のジャンルや流派に分類することを好みません。彼が関心を寄せているのは、具象と抽象のあいだに広がる曖昧な領域、つまり、見えるものと感じ取るものが交差する場所です。多くの作品は、ある瞬間の気配や雰囲気をとらえており、写実的に描くのではなく、その場の空気や感情を映し出しています。こうした曖昧さが、観る人それぞれの自由な解釈を引き出し、作品との個人的な関係を生み出しています。タイトルが付けられることはまれで、鑑賞者自身の感情や記憶が、作品に重ねられていくことが促されています。
北極の風景は、セルフォースにとって単なるモチーフではなく、創作を共に担うもう一人の「語り手」と言える存在です。絵画やドローイング、ミクストメディアといったさまざまな技法を通じて、彼の作品は極北の壮大なスケール、質感、光を表現しています。描かれているのは風景そのものではなく、その本質です。真夜中の太陽、凍てついた川辺、肌を刺すような風は、ただの自然描写ではなく、感情の輪郭を形づくる力となっています。カメラを手にするときも、キャンバスに向かうときも、セルフォースは媒体にとらわれることなく、それぞれの手法から異なるインスピレーションを受け取っています。制作の場は、アトリエだけでなく、雪の中に張ったテントであることもあります。必要なのは、北極の光と、それが呼び覚ます直感だけです。
彼は技巧に敬意を払いつつも、一つの素材や方法に固執することはありません。アクリルや油彩は、それぞれ異なる表現の瞬間に合わせて選ばれ、ミクストメディアの作品では、写真、スケッチ、絵画を融合させることで多層的な視覚体験が生まれます。こうした幅広い手法の組み合わせは、常に新鮮な視点を持ち続けたいという彼の姿勢を反映しています。学生時代に学んだ転写技法やグラフィックの知識も、現在の作品に確かなかたちで息づいています。セルフォースにとって、手に取るすべての素材は、感情をすくい上げ、思考を探り、発見を重ねるための手段です。
地球とともに呼吸するアート
自然は、セルフォースの作品において単なる影響ではなく、共に創る存在であり、導き手であり、絶えず新たな気づきを与えてくれる教師でもあります。彼は自然を、見返りを求めず贈り物を差し出す偉大なアーティストだと語ります。なかでも北極は、孤独と明晰さ、静けさと力強さといった相反するものが交差する、広大な表現の場です。セルフォースはこの風景を模倣するのではなく、自らが雪に覆われた谷を歩き、極地の光を目にしたときに感じる静かな荘厳さを作品に映し出そうとしています。自然のもたらす無数の質感、音、形は、彼の直感に語りかけ、人工的な資料では得られない創造の糧となります。
とりわけ、あまりに美しい写真は想像力を縛る危うさがあると彼は考えています。魅力的な映像に引き込まれると、再現にとらわれてしまい、創作の流れが止まってしまうからです。創造の自由を保つため、そうした資料はあえて遠ざけ、本能に委ねる余白を大切にしています。現実から意図的に距離を取ることで、視覚的な正確さではなく、感情の真実を映し出すことができるのです。セルフォースにとって創作とは、終わりの決まった工程ではなく、直感が主導し、自然がその物語を紡いでいく過程にほかなりません。
地球への敬意は、彼の創作の核心にあります。現在進行中のプロジェクト『Monuments(記念碑)』では、深刻さを増す気候変動をテーマに据えています。このシリーズはまだ制作の途上にありますが、環境の脆さと儚さに真正面から向き合い、それを遠い話ではなく、私たちすべてに関わる現実として提示しようとしています。セルフォースにとって、アートは時代の差し迫った問いに対して感情で応えるための、もっとも自由な言語です。『Monuments』を通じて、彼は私たちに問いかけています。いま、何が失われつつあるのか。そして、私たちはそれを守ることができるのか。その答えは、地球が送り続けているサインに、私たちが耳を傾けられるかどうかにかかっているのです。
ロバート・セルフォース:沈黙の奥にある声
セルフォースは、自らの内面にある葛藤や感情を率直に表現できるアーティストに強く共感しています。とくに敬意を抱いているのが、エドヴァルド・ムンクです。ムンクの作品には、人間の心の奥に潜む見えない緊張が、驚くほどの力で表れています。そのように、感情を飾らずに視覚化する表現こそが、セルフォースが自らの作品に求めているものです。また彼は、これまで十分に評価されてこなかった女性アーティストたちの鋭く豊かな表現にも関心を寄せています。感情を表すことは個人的な営みであると同時に、人と人をつなぐ共感のかたちでもあると考えています。
彼の信念のひとつは、感情への誠実さと自然への感受性が深く結びついているということです。ディスレクシアによる困難と、自然の中で得た安らぎ。この両方の体験が、彼の創作の土台となりました。そこで彼が学んだのは、「沈黙にも声がある」ということです。彼の作品にはその気づきが息づいており、見るだけでなく、聴くことを鑑賞者に促します。作品は、個人の記憶と普遍的な感情が交差する空間であり、極北の磁力に導かれた静かな語りがそこに重なっています。
豊かな経験を重ねてきた今も、セルフォースは驚きと探求の姿勢を失っていません。彼が求めているのは、完成ではなく、つねに変化していくことです。新しい素材を試したり、新たなテーマに取り組んだりすることは、土地と自己、そして鑑賞者との対話の一部だと考えています。その歩みは、公式サイト www.arcticmoods.org からたどることができます。期待に応えることではなく、自然の本質に導かれて生まれた作品の数々が、一筆ずつ記録されています。
現在、セルフォースはキュレーターやアートギャラリーからの連絡を待ち望んでおり、双方にとって有益な協力関係を築くことを目指しています。