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「私は過去の時代からの引用を取り入れ、それを現代的な表現と融合させます。」

エリック・フォルモー:ノルウェーの静謐な故郷で育まれる創造力

エリック・フォルモー(Erik Formoe)は、ノルウェーの穏やかな田舎町で生まれ育ちました。現在70歳の彼は、故郷に2つのアトリエを構え、この地を拠点に創作活動を続けています。

幼少期、フォルモーは厳格な宗教の教えを重んじる家庭で育ちました。長時間続く礼拝の間、両親は静かに過ごすためにスケッチブックと鉛筆を彼に渡しました。この何気ない行為が、彼の中に創造性の芽を育てるきっかけとなりました。

また、家庭には画家として生計を立てる下宿人がおり、フォルモーはその生活に魅了されました。彼が使用していた絵の具やイーゼル、部屋いっぱいに広がるキャンバスの存在は、幼いフォルモーを強く惹きつけました。この経験が彼の心に火を灯し、12歳の頃には画家を志すようになりました。両親は不安を抱えながらも、フォルモーがオスロの美術学校へ進む姿を見守りました。

1970年代から1980年代にかけての学生時代、フォルモーは伝統的な技法を徹底的に学びました。キャンバスの準備や絵具の調合といった基本から、モデルを使った制作、美術館巡り、さらにはヨーロッパ各地での研修旅行まで、あらゆる経験が彼の芸術的視野を広げていきました。

フランス印象派の画家たち、とりわけセザンヌやモネ、マネの作品はフォルモーにとって特別な存在でした。彼らの革新性や屋外制作の手法に深く感銘を受けたフォルモーは、特にモネの色彩表現や筆致に大きな影響を受けました。この影響は彼の作品にも色濃く反映されています。

エリック・フォルモー:ルネサンスと印象派を融合する独自の表現

オスロ美術アカデミーでの最初の課題は、人体モデルを観察しながら描くデッサンでした。この作業では、形や線を正確に捉える技術が求められ、自由な筆遣いとは異なるアプローチが必要でした。この経験をきっかけに、フォルモーの作品は落ち着いた暗い色調を基調とし、形や構造の正確な描写に重きを置くスタイルへと変化していきました。こうした変化は、自由な筆致と明確な構造を融合させる探求へとつながり、その後の50年間にわたりフォルモーの創作を支える基盤となっています。

オスロでの8年間の学生生活を経て、フォルモーは都会の喧騒に疲れ、故郷に戻ることを決意します。帰郷後、彼は自らの作品を展示するギャラリーと創作の場を兼ねたスタジオを立ち上げ、プロのアーティストとしての第一歩を踏み出しました。

フォルモーの作品には、肖像画や複数の人物が描かれることが多いですが、それらは具体的な個人を示すものではなく、観る者がどこかで感じたことのあるような、親しみと謎が同居する存在として描かれています。フォルモーは、「人は皆、それぞれ物語を持っている」という考えを大切にしており、鑑賞者が自らの解釈を自由に膨らませられるよう工夫されています。

また、フォルモーの技法は、見せる部分と隠す部分のバランスが特徴です。幾何学的な形や特徴的な装飾を取り入れたり、顔の一部をあえて描かないことで、観る者に緊張感や神秘性を感じさせます。こうした方法により、フォルモーは現実の再現にとらわれることなく、自由な発想で形や色を組み合わせ、物語性のある絵画を生み出しています。

エリック・フォルモーの現代的表現:時代を超えた調和の融合

エリック・フォルモーの作品は、異なる時代の要素を巧みに取り入れ、それを独自の現代的なスタイルとして融合させています。ルネサンス期に見られる静穏な構成の美しさと、印象派が特徴とする鮮やかな色彩が共存し、彼の作品に独特の調和をもたらしています。

彼の画家としての歩みは、自然に囲まれた風景を描くことから始まりました。屋外で制作することが多く、自然そのものからインスピレーションを受けていました。しかし、人物を描くことに徐々に関心が移り、当時広がりを見せていたカフェ文化の中で目にする人々の生き生きとした交流が、作品のテーマに影響を与えるようになりました。ここ20年は特に肖像画に注力しており、人物を中心した作品を多く手掛けています。

どのようなテーマを描く場合でも、フォルモーの画風には過去の時代の影響が色濃く表れています。ときには自分自身をモデルに用いることもあり、顔の一部を省略したり、衣装に独自の工夫を凝らしたりと、伝統的な肖像画の枠を超えた大胆で自由な表現を追求しています。フォルモーは、被写体の外見そのものよりも、その人物が持つ内面的な雰囲気や全体の空気感を表現することを重視しています。

フォルモーが油絵具を選ぶ背景には、これまでの制作活動で培った経験が深く関係しています。若い頃に触れた画家たちの作品やその制作過程が、油絵具の持つ魅力を改めて感じさせたのです。油絵具はその特性上、色の鮮やかさが持続し、乾燥に時間がかかるため、じっくりと向き合いながら描ける点も彼の制作スタイルに適していると言います。

フォルモーは、ルネサンス初期や印象派の作品から深い影響を受けており、特にフィンセント・ファン・ゴッホの力強い色彩表現に魅了されています。また、エドヴァルド・ムンクの遺産とのつながりも重要で、ムンクが創作した家やスタジオを訪れることで得た感覚が彼の作品に影響を与えています。オスロの新しいムンク美術館の展示を通じて、彼のインスピレーションはさらに広がっています。

静けさと真実を求めて:エリック・フォルモーの芸術的探求

エリック・フォルモーは、創作活動において何よりも静かな環境と安定した生活が重要だと考えています。誰にも邪魔されず、一人でじっくりと向き合う時間が、彼の作品を支えてきました。また、大きな展覧会の準備に伴うプレッシャーには馴染めないことも多く、自由な創作を大切にしてきました。

ここ数年、病気の影響で展覧会への参加を控えることが続きましたが、その間、自身の芸術を見つめ直す貴重な時間を得ました。今では、外からの要請に縛られることなく、心の赴くままに新しいテーマや表現を追求しています。人生がいかに儚いかを改めて実感し、自分の情熱を注げるものだけに集中するようになりました。

フォルモーが特に心を動かされた作品として、オスロ国立美術館に展示されているフィンセント・ファン・ゴッホの肖像画があります。12歳の頃に初めてこの作品を目にした時、その鮮やかな色彩と圧倒的な存在感に深い感銘を受けました。この経験をきっかけに、彼はゴッホの人生や作品、ゴーギャンとの関係、手紙に至るまで多くを学びました。

フォルモーにとって、ゴッホの短い生涯で生み出された作品は、純粋で偽りのない表現の結晶です。これこそが、彼が現代の芸術に欠けていると感じている要素でもあります。

将来、フォルモーはこれまでの代表作25点を一堂に集めた展覧会を開くことを夢見ています。全ての作品を配置し、50年間の歩みを象徴するような展示を目指したいと考えています。しかし、彼の作品の多くはすでに世界中に散らばっているため、この夢の実現は難しいかもしれません。