「オブジェアートや抽象画の制作を経て、現在は写真表現に力を注いでいます。しかし、私の目標はそれだけではありません。世界中のアーティストが手がけた作品を集め、誰もが気軽に楽しめるアートスーパーマーケットとワークショップを実現することを目指しています。」
唯一無二の視点を磨く
日本中部の穏やかな自然に包まれた町。今井康弘(Yasuhiro Imai)の芸術の原点は、そこで育まれた繊細な感覚に根付いています。幼い頃、父親が情熱を注いでいた錦鯉に触れる機会を通じて、今井の感性は磨かれていきます。鯉が成長する過程で変化する形や色を観察するうちに、細やかな美しさを見つめる目が養われました。この経験は、自然が生む美と人の手による創意が織り成す魅力を肌で感じるきっかけとなります。
やがて抽象芸術への関心が芽生え、それは次第に彼の創作活動の中核を成すようになります。また、ファッションに惹かれたことで、形や色彩、質感が人間の身体とどのように調和するかを深く探究するようになります。この探究心は日本を飛び出し、5年間のドイツ滞在や世界各地への旅によってさらに培われていきました。美術館や街並み、異なる文化の表現に触れる中で、今井は自然と創造性が織り成す普遍的な美の言語を体得していきました。
今井康弘:広がる世界からのインスピレーション
日本に帰国後、今井は東京の建築が日々変化する様子に刺激を受け、建築への関心を深めました。しかし、都市が繰り返す解体と再生のサイクルに戸惑いを覚え、次第に新たな環境を求めるようになります。そして、選んだ移住先がメキシコでした。メキシコでは、建築家ルイス・バラガンの作品に触発され、「本質的な美とは何か」を模索する中で、自らの芸術的表現をさらに磨いていきます。この地で、彼は自身の感情や視点を芸術作品として形にする方向性を見出しました。
メキシコでの活動は多方面に広がり、特に文化機関や美術館でその才能が認められました。グアナファト大学での展示をはじめ、現地の芸術コミュニティからも評価を受けました。また、メキシコシティの前衛的なギャラリーで5年間にわたり作品を発表し、国際的な注目を集める機会を得ました。これらの経験が、今井の創作における方向性を大きく形作るきっかけとなりました。現在、今井はオブジェアート、抽象絵画、自然をテーマとした写真を中心に制作しています。彼の作品は、自然が秘める美を映し出し、観る人にその魅力を語りかけます。
創作の舞台:今井康弘のアトリエ
今井康弘のアトリエは、彼の芸術哲学が色濃く反映された特別な空間です。白を基調としたシンプルな空間と、柔らかな光を取り入れたこのアトリエは、制作の場であると同時に、心を整え、感覚を研ぎ澄ますための特別な環境でもあります。今井は、光がもたらす効果に強い関心を寄せており、その明暗や変化を通じて、世界の中に隠れた美しさを引き出そうとしています。
写真は、今井の創作に欠かせない要素のひとつです。制作の場だけでなく、日々の中に潜む美を丁寧に切り取り、カメラを通してその瞬間を静かに記録しています。自然が描く繊細な模様や、光と影が織りなす一瞬を捉えることで、彼の作品には独特の深みが宿ります。それは単なる記録にとどまらず、今井が世界をどう見つめ、何を感じているのかを伝える表現そのものです。彼の写真は、日常に埋もれた特別な瞬間を掘り起こし、その価値を私たちにそっと語りかけます。
今井康弘:哲学と未来への展望
今井康弘の創作には、アントニ・タピエスの作品が大きな影響を与えています。タピエスの自由でシンプルな表現は、今井にとって深い共鳴を呼び起こすものであり、日常に潜む質感や形の美しさを見つけるきっかけとなりました。この考え方は、彼が物質世界に宿る隠れた美を探し求める原動力となっています。
現在、写真制作を中心に活動を続ける今井は、アートの新しい可能性を模索しています。「アートスーパーマーケット」とワークショップの設立という構想は、アートをより身近に感じてもらうための試みです。世界中のアーティストが手がけた作品を、誰もが気軽に楽しめる場をつくること。それは単なる作品販売にとどまらず、多様な芸術との出会いを広げるきっかけになることを目指しています。この挑戦には、芸術が文化や地理の壁を越えて人々をつなぐ力があるという今井の強い信念が込められています。アートを通じて新たなつながりを生み出し、誰もが気軽にその魅力に触れられる世界を実現する。それが、彼が描く未来のビジョンです。