「これまでの経験やさまざまな出会いを通じて、私は写真へのアプローチを支える3つの言葉に出会いました。その一つが、ディラン・トマスの『芸術とは真実を語ることだ』という言葉です。」
クリストファー・B・ファウラー:記憶のキャンバス
クリストファー・B・ファウラー(Christopher B Fowler)の芸術的探求の旅は、意外な場所から始まりました。それは、図書館で不要になったメモ用紙や掲示物の裏紙でした。父親が高校の図書館司書をしていたこともあり、幼いファウラーはこうした紙を自由に使える機会に恵まれました。この環境が、彼の創作活動の原点となり、芸術への情熱を育む土壌となったのです。
やがて、彼の興味は紙から映像の世界へと広がり、アニメーションという動的な表現に挑戦するようになります。特に、イングマール・ベルイマンの映画『愛のさすらい』(The Touch)との出会いが、彼の映画制作への関心を大きく高めるきっかけとなりました。しかし、父親の勧めや映画学校への興味があったものの、彼は別の進路を選び、人文科学系の大学に進学しました。大学時代には、映画に詳しい教授と出会い、助言を受けながら関心をさらに深めていきました。この経験が、彼の独自の芸術的視点を形作る重要な礎となったのです。
クリストファー・B・ファウラー:インスピレーションのレンズ
大学時代、クリストファー・B・ファウラーの人生を大きく変えた出来事の一つが、エドワード・スタイケンの回顧展でした。メトロポリタン美術館で展示されたスタイケンの作品の中でも、特にフラットアイアンビルを撮影した初期カラー写真は、彼に深い感銘を与えました。この写真はその後も長く彼の生活空間を彩り続け、ファウラーが心の中で追い求める象徴的な存在となりました。それは、彼にとってインスピレーションの源であり、写真家としての目標を体現するものでした。
また、フィラデルフィア美術館で開催された画家トマス・エイキンズの回顧展も、ファウラーの創作に大きな影響を与えました。エイキンズの光と影の扱い方や、独特の「横からの光」を活かした表現は、ファウラーの視覚的感性を磨く重要な手がかりとなりました。さらに、父親がジョージア・オキーフに抱いていた敬意や、ビル・モイヤーズとジョセフ・キャンベルの対談で語られた「芸術はスピリチュアルな追求である」という考え方も、ファウラーの芸術哲学に深い影響を与えています。
多様な表現を通じた芸術の本質
クリストファー・B・ファウラーの芸術的アイデンティティは、一つの形式や手法にとどまりません。彼の創作の歩みは、ドローイングから映画制作、さらに写真へと広がり、その過程で彼の芸術に対する真摯な姿勢が浮かび上がります。また、彼の創作活動にはフィクションや詩の執筆も含まれており、多彩な才能を持つ彼の幅広い表現力を示しています。特に、フィラデルフィアで「クエーカー芸術の友の会」が主催するアートショーに参加し、提出した3点の写真がすべて審査を通過したことは、彼の写真家としてのキャリアを切り開く重要な出来事となりました。
ファウラーの作品は、光や影、線、色彩、質感といった抽象的な要素を巧みに用い、それらを通じて視覚的な体験の本質を伝えようとするものです。風景や建築物、抽象的な構図を主題とする彼の写真は、これらの要素が生み出す感情的な力を引き出し、見る者の心に深い共感を呼び起こします。デジタル加工を極力避け、最小限の技術で真実を表現する彼のスタイルは、ディラン・トマスの「芸術とは真実を語ることである」という言葉に触発されています。
クリストファー・B・ファウラー:アートで結ぶ心の絆
クリストファー・B・ファウラーの作品には、彼自身の個人的な経験や思い出が色濃く反映されています。その一例が、フィンランドの群島を撮影したシリーズ『From Momi’s Room』です。このシリーズは、彼の家族史と深い結びつきを持つフィンランドの島々をテーマにしており、彼にとって特別な意味を持つ作品群です。母方の家族が夏を過ごしてきたこの島は、限られた小さな世界でありながら、彼にとって尽きることのない創作の源となり、作品に繰り返し登場する重要なテーマとなっています。
35mmフィルムを使い続ける彼の選択には、独特の美意識と深い感情が込められています。デジタル写真を試みたこともありますが、フィルムの持つ質感や奥深い表現力に魅了され、その特性を大切にし続けています。このこだわりは、観る者に「自分の目で見た光景そのもの」と感じさせることを意図しています。また、彼の展示は、単なる作品の鑑賞にとどまらず、日常から解き放たれ、心の深層と向き合う特別な体験を提供する場となることを目指しています。